声  明
2026年3月7日

統一教会の「清算手続」が始まるにあたって


 全国霊感商法対策弁護士連絡会  
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
 代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 木村 壮(東京)   
   
  本年3月4日、東京高等裁判所は、統一教会(世界平和統一家庭連合)に対して解散を命じた昨年3月25日の東京地方裁判所決定に対する統一教会の即時抗告を棄却し、第一審決定を維持しました。この抗告審決定は、第一審決定よりも更に踏み込み、統一教会による被害実態や統一教会側の対応状況を詳細に分析・検討した上で、「旧統一教会が、今後、信者らによる不法行為を防止するための実効性のある対策を自発的に執ることは期待し難く」「実効性のある手段は、旧統一教会の解散命令以外に見当たらない」と断じたものであり、高く評価できます。
 このような抗告審決定による解散命令の確定を受けて、同日、東京地方裁判所から伊藤尚弁護士(第一東京弁護士会所属)が清算人に選任されました。
 統一教会の清算手続が始まるにあたり、当連絡会は、清算人および清算を監督する東京地方裁判所に対して以下のとおり求めます。

   
第1 声明の趣旨 
1. 清算人および裁判所においては、本清算手続の本質が被害者救済手続であるという基本的な姿勢の下で清算手続を進めていただくよう、お願いします。

2. 清算人においては、現在まだ信者であるが、将来、脱会して被害の声を上げてくる潜在的な被害者も含めて、全ての被害者への徹底した賠償を実現していただくよう求めます。

3. 清算人においては、全ての被害者を救済し、新たな被害を抑止するため、通常の清算事件・破産管財事件の枠を超えて、行政・立法への積極的な働きかけを含めた対応を求めます。

  4. 清算人においては、当連絡会と緊密に連携を取って清算手続を進めていただくよう、お願いします。

第2 声明の理由 
1.基本的な姿勢について(声明の趣旨第1項) 
 かつて豊田商事事件の破産管財人だった故中坊公平弁護士は、被害者救済のために大変なご尽力をされ、選任から6年後の最後の債権者集会で、「私は、生涯、被害者や弁護団の皆さんとともにあります。そして少しでも被害者の方々や弁護団の苦しみや悲しみをともに分かちあっていきたいと思います。」と述べました(豊田商事株式会社破産管財人編「豊田商事事件とは何だったか」朝日新聞社)。

 また、オウム真理教事件の破産管財人だった故阿部三郎弁護士は、被害者救済の実現のために「管財業務に関しては業務の限界点まで可能な限りのあらゆる手段、方法を尽くす」という強い姿勢で、13年間にわたり、立法・行政への働きかけを含め被害者救済のためにあらゆる活動に徹底して取り組まれました(阿部三郎著「そのときどきに私の思いをこめて」非売品)。

 本件で解散を命じられた統一教会は、東京高等裁判所決定によれば、1973年以来、実に半世紀近くにわたり、霊感商法や違法な献金勧誘等により膨大な被害者を生み出してきたとして、「著しく公共の福祉に反すると明らかに認められる」(宗教法人法81条1項1号)と断じられた宗教法人であり、その被害は未曽有の人数・金額に上るだけでなく、その内容も、財産的損害にとどまらず、精神的損害や家族被害、2世への児童虐待を含む様々な人権侵害などにも及ぶ極めて深刻かつ重大なものであり、清算手続で問題となる債権も、このような多様かつ多数の被害者の不法行為に基づく損害賠償請求権です。

 上記のとおり、長期間に亘って膨大な被害者を生み出してきたことを理由としてなされた解散命令を受けて実施される本清算手続は、その本質が被害者救済手続であり、通常の破産管財事件や清算事件のように、単に破産法等の枠内で、財産を集め、管理処分を行い、債権申出をさせ、配当して終了するという形式的な処理だけでは、その本質的な目的を達せられません。

 清算人および裁判所におかれては、被害者に寄り添っていただき、本清算手続の本質が被害者救済手続であるという基本的な姿勢の下で清算手続を進めていただくようお願いします。

2.被害者への徹底した賠償について(声明の趣旨第2項) 
 
 このように、統一教会により過去半世紀近くの間に被害を受けた被害者は膨大な数に上りますが、これまでに賠償を受けた方や、現在、全国統一教会被害対策弁護団の集団調停などを通じて損害賠償請求を行っている方は、全体のごく一部に過ぎません。

 長年にわたるマインドコントロールや統一教会の意向に反すると地獄に落ちるなどといった恐怖を植付けられたことによって声を上げられない方、教団関係者からの報復や誹謗中傷を恐れて声を上げられない方、現役信者である家族に配慮して声を上げられない方、未だに心の整理がつかずに声を上げられない方などが多数存在します。過去、半世紀近くにわたり積み上げられてきた膨大な数の被害者が、依然として賠償を受けられないまま取り残されているのが実情です。このような被害者や、現在まだ信者であるが、将来、脱会して被害の声を上げてくる潜在的な被害者も含めて、全ての被害者に対して適切な賠償がされる必要があります。

 文化庁が昨年10月20日に作成した指針でも、「債権の申出期間経過後に申し出た被害者を含め、一人の被害者も取り残すことのないよう、被害者に対し誠実に対応するとともに、でき得る限りの努力をもって被害の回復を図ることを基本的な立場とすべき」とされています(2項(2))。

 清算人においては、このような本件被害・被害者の特殊性をご理解いただき、一人の被害者も取り残すことのないように、多様かつ多数の被害者に届くよう行政等とも協力して手続を周知して債権申出を促すとともに、債権申出の期間設定や債権の認定にあたっては十分な配慮をいただき、被害者への適切な賠償をお願いします。

 また、統一教会やその関係者・関連団体により被害者や家族・ジャーナリスト・弁護士等に対する誹謗中傷やSLAPP訴訟が行われています。清算人においては、これらの行為により被害者等が現実に損害を被っている上、被害者が新たに声を上げることが困難になっている現状を踏まえ、その対策を講じていただき、被害者が安心して債権申出ができる環境を整えていただくようお願いします。

 以上の取り組みにより統一教会の資産を徹底して被害者への賠償に充てることは、統一教会の後継団体・法人による今後の活動資金を枯渇させることになり、将来の被害抑止にも繋がります。

  3.行政・立法への積極的な働きかけ(声明の趣旨第3項) 
 
 多様かつ多数の被害者に清算手続を周知し、全ての被害者が安心して債権を申し出て賠償を受けられるようにするためには、相談窓口の設置や広報など、行政に支援していただくことが必要不可欠です。

 また、当連絡会の本年3月4日付け声明でも改めて指摘したとおり、現在の宗教法人法の下では、2009年の統一教会の責任役員会及び評議員会議での決議に基づき、統一教会が実質的に支配している宗教法人である天地正教(北海道帯広市)に残余財産が承継されてしまう恐れがあります。統一教会消滅後も、後継法人である天地正教により違法な伝道勧誘・献金勧誘活動が継続されることが強く懸念され、それを防ぐためには立法措置が必要です。

 さらに、清算手続が始まり、宗教法人としての税制面の優遇措置がなくなったため、統一教会が所有する不動産にも固定資産税が課税されるようになります。この課税により、被害者への弁済の原資が減り、弁済原資が不足する事態も懸念されることから、課税されないような立法措置も必要です。「オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律」が参考になります。

 もとより、当連絡会においても被害者救済のために必要な施策について行政・立法への働きかけを行っていく所存ですが、清算人におかれても、清算手続による被害者救済の実現のため、または清算手続において直面する様々な困難への対処のため、通常の清算事件・破産管財事件の枠を超えて、当連絡会との協働の下で、行政・立法への積極的な働きかけを含めた対応をお願いします。


  4.当連絡会との連携について(声明の趣旨第4項) 
   当連絡会は、1987年に約300名の弁護士で結成され、以来、約39年間にわたり統一教会被害の救済・抑止のために活動を行ってきました。当連絡会には、長年の活動により集められた膨大な資料・情報と豊富な知見・経験の蓄積がありますが、被害者救済のためにこれらを清算人に提供することを一切惜しみません。

 債権申出にあたっては、現役信者や、3男派・4男7男派など分派の信者その他統一教会の関連団体等が、返金された金員等を献金等名目で当該分派等に環流させる目的で、組織的かつ計画的に虚実を織り交ぜた債権申出がなされることが強く懸念されるところですが、これらに対処するためには統一教会問題に関する知見・経験が必要です

 清算人におかれては、是非、当連絡会と緊密に連携を取って清算手続を進めていただくよう、お願いします。
 以上