声   明
2022年11月29日

統一教会被害者救済に関する「新法概要」と「消費者契約法等改正案」の問題点について

全国霊感商法対策弁護士連絡会        
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 川井康雄 
   
 1 政府は昨日、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」案(以下「新法案」という。)を発表した。
    当会は既に今月19日、同法案の概要が明らかになった際に、これに対して、被害防止や被害救済の観点からの不足点、問題点を指摘する声明(以下「前回声明」という。)を発出した。

    今回発表された新法案では、概要には含まれていなかった内容もある。

    前回声明1項で述べた通り、世界平和統一家庭連合(以下「家庭連合」という。)による加害行為の実態からすれば、新法案は、本来、宗教法人ないしこれに類する団体の正体を隠した勧誘方法そのものを正面から規制する立法であるべきである。

    ところが、新法案は、対象行為については寄附に限定した上で、対象当事者を宗教法人に限定せずに広く寄附全般を規制対象にしているため、現在問題とされている家庭連合の加害実態(信者は長期間の教化活動によって統一原理の拘束が強いうえ、組織に隷従させられているため、家庭連合に関する事柄については恒常的に自由な意思決定ができない状態にされていること)に即した規制となっていない。そして、信者本人も被害者であり、その保護が必要であるとの視点にも欠けている。

    しかしながら、ここでは迅速な新法成立が被害防止・被害救済に繋がり得るという考えの下、今般発表された新法案を前提に、どのように修正すべきであるかという点に絞って、当会の意見を明らかにする。

 2 対象(第1条)について
    新法案でも規制対象が個人から法人(又はこれに準ずる社団・財団)への寄附に限られており、対象として狭すぎる。

    概要に比べると、新法案では、法人が第三者に寄附の媒介を委託した場合の当該第三者に対しても取消権の規定が準用されており(第8条3項)、また、法人の代理人も法人とみなすとされている(同条4項)。しかし、寄附の媒介を「委託」したことや代理権を寄附者の方から立証することは困難であるから、やはり不十分である。

    前回声明で述べた通り、少なくとも団体ないし団体幹部個人への寄附も規制対象に含めるべきである。

 3 寄附の勧誘を行うに当たっての配慮義務(第3条)について
   (1)新法案では、第3条1号(自由な意思を抑圧した勧誘の禁止)、2号(生活維持を困難にする寄附の禁止)、3号(寄附の相手方及び使途の誤認禁止)が配慮規定として新たに設けられた。

    これらの配慮規定は、まさに家庭連合の加害実態から規制が求められている点であるところ、その規制が法人等に対して「配慮義務」を課すだけに留まれば、迅速な被害防止・被害救済は実現できない。これらの配慮規定で定められた行為はいずれも不当な寄附勧誘行為であって、こうした勧誘を規制することが宗教団体の信教の自由を侵害するものではないことは明白であり、他の宗教団体や寄附を受ける団体が、こうした勧誘を是とする意見を持っているとも到底思われない。

   (2)そこで、これら配慮義務の内1号、3号についてはいずれも第4条の禁止行為に含め、これらの規定で定められている不当な寄附勧誘行為によって被害を受けた者がすぐに取消権を行使できるようにすることを求める。2号については、配慮義務として残した上で、後述する「借入れ等による資金調達の要求の禁止(第5条)」で具体的な禁止規定とするべきである。

  4 寄附の勧誘に関する禁止行為(第4条)について
   (1)柱書について

     ア 寄附の勧誘に関する禁止行為(第4条)はいずれも、消費者契約法第4条3項の取消事由を援用する形を取っており、当該勧誘により被勧誘者が「困惑」したことを要件としている。

      この「困惑」の解釈については消費者契約法の逐条解説上、「困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいう。畏怖をも含む、広い概念である。」とされている。

      しかしながら、前回声明で述べた通り、家庭連合による被害には、違法な伝道教化によって不当に持たされた教義に基づく確信・責任感や義務感、あるいは使命感から、当該寄附の出捐時だけを見れば、進んで寄附を行っているように見えるものが多く含まれる。こうした被害は、「困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなる」という心理状態で生じたものとはいえず、困惑類型での規制では明らかに不十分である。

      そこで、後述する通り6号の条文を修正した上で、柱書においては「ただし、6号においては『困惑』させることを要しない」との規定を設けるべきである。

     イ 同じく柱書の「寄附の勧誘をするに際し」との規定は、消費者契約法の逐条解説上、「事業者が消費者と最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過において、という意味」であるとされている。

      しかし、同法で想定しているのは専ら一回的・単発的な取引であり、家庭連合における献金のように、正体を隠して数か月から数年という長い期間をかけて伝道教化し、そのようにして持たせた信仰を利用することにより、例えば、入信させた時期から何十年も経過した後まで、継続的に献金を出させるという場合に、伝道教化する際の言動までが、「寄附の勧誘をする際」になされたものとして規制対象に含まれるかどうか疑義が残る。

      したがって、この点の疑義を払拭すべく、柱書における「寄附の勧誘をするに際し」の規定を、「寄附の勧誘をするにあたり(6号については、その活動資金が寄付によって賄われている団体の場合には、当該団体の構成員になることを勧誘した際の言動も含めて同号への該当性を判断するものとする)」との規定に修正すべきである。

   (2)同条6号について

      前記の通り、家庭連合による被害は、「困惑」しないで行う献金が多く含まれるのであり、それは、正体隠し等の不当な勧誘行為により教義を植え付けられ、自由な意思が抑圧され、あるいは自由な意思が歪められた結果としてなされる献金であって、そうした勧誘も規制対象としなければこの問題の重要な点を見落とす結果となる。

      また、寄附が重大な不利益を回避するために「必要不可欠」である旨を告げることが要件とされている。勧誘者がその通りの文言を言う必要がなく、同趣旨の言動があれば足りるものであるとしても、「不可欠」の文言を要件とすることは取消対象を過度に限定することになり、問題である。

      そこで、具体的には、同条6号を、「当該個人に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該個人又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおるなどの方法によって個人の自由な意思を抑圧し、ないしは歪めて、その勧誘を受ける個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状況を作出し、あるいはその状況に乗じて、寄附をすることが必要である旨を告げること」と修正すべきである(下線部が修正部分)。なお、前記の通りかかる規制は困惑類型とは別に定められるべきものであることから、法律の構成上、困惑類型とは別にするため、同号を第4条2項にすることも考えられる。

   (3)その他の消費者契約法条の規制について

    新法案第4条では、消費者契約法第4条の規定の内、不実告知(同条1項)、重要事実の不告知(同条2項)及び生計・健康不安に関する規定(同条3項5号)が禁止行為として含まれていない。

    これは、前二者については双務契約を前提にする規定(勧誘者から被勧誘者に対する履行内容に関する説明を対象とするもの)であることから寄附行為の規制にそぐわない、後者については生活の維持が困難となる旨告げるという内容が寄附行為にそぐわない、という理由のようである。

    しかしながら、寄附という行為は、基本的に法人等が一方的に経済的利益を享受するという性質のものであり、また、法人等が被勧誘者に対して寄附の意義、受領する団体等に関する説明を全くしないなどということは想定できないことからして、その勧誘にあたっては、被勧誘者に対する勧誘文言全般に対して不実告知や重要事実の不告知の規制がなされるべきである(寄附を受ける法人等が虚偽を述べ、あるいは重要事実を告知しないで寄附を勧誘することが不当であることは論を待たないものである。)。また、特に献金被害の場合、当該寄附をすることで救済されるという勧誘文言には、病気からの回復や生活状況の改善や向上も含まれるのであり、これらを除外する理由はない。

    そこで、不実告知や重要事実の不告知については「重要事項」(消費者契約法第4条5項)を「寄附を行うか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」、すなわち寄附を求める主体や寄附された金員の使途等も重要事項に含まれるものと読み替えた上で、生計・健康不安に関する規定と共に、禁止行為に含めるべきである。

  5 借入れ等による資金調達の要求の禁止(第5条)について
    この点は、概要の発表の後、居住用不動産に加え、生活維持に必要な事業用不動産の処分による寄附のための資金調達要求が禁止対象とされた。

    しかし、このような規定の趣旨は、被勧誘者やその親族の生活維持が趣旨であると思われるところ、これら不動産の処分を寄附の資金調達として要求することが禁止されるのであれば、当該不動産そのものを寄附として供与する行為を併せて禁止しなければ、容易に禁止行為の潜脱がなされてしまうことが明らかである。また、前回声明でも言及した通り、また配慮義務の2号で定められている本人や親族の生活維持の保護の観点からしても、これらの不動産に限ることは未だ不十分である。少なくとも3号として、「その他前2号に準じて、当該個人又はその配偶者若しくは親族の生活の維持に重要な財産」との規定を入れるべきであるし、家族または第三者の財産からの献金要求・勧誘も対象とされるべきである。

    そして、こうした重要財産を原資とする過度な献金は、類型的に自由な意思に基づくものとは考え難いものであるから、取消権の対象とされるべきである。

   また、同規定の資金調達を「要求する」行為だけではなく「勧誘する」行為も禁止されるべきである。

  6 取消権の行使期間(第9条)について
     前回声明で述べた通り、少なくとも民法に準じて意思表示から20年とするか、取消権の付与ではなく無効とする規定を検討すべきである。

 7 扶養義務等に係る定期金債権を保全するための債権者代位権の行使に関する特例(第10条)について
   (1)この点も前回声明で述べた通り、債権者代位権構成において被保全債権を扶養義務等に係る定期金債権に限ることは射程が狭過ぎ、被害防止、被害救済に繋がらない。そしてこの問題点は新法案においても何ら改善されていない。

   (2)債権者代位の構成が取られているのは、被勧誘者による寄附が原則として自由で、財産権の行使として尊重されるべきであり、したがって家族自身の権利である扶養義務を侵害する場合に救済を限定すべきとの発想に基づくものといえる。

    しかしながら家庭連合の被害で問題になっているのは、信者本人やその家族の保護の観点を看過し、寄附に対する規制をしなかった結果、家庭が崩壊するような寄附が繰り返されてきたという実態である。

    にもかかわらず、(仮に将来、親族から債権者代位権の行使がされても)扶養義務の範囲だけ返還すれば良いとなれば、そうした寄附を積極的に募ろうとする団体の献金勧誘に対する歯止め、被害救済の方法としては不十分と言わざるを得ない。

   (3)冒頭で言及した家庭連合の加害実態にある通り、信者は恒常的に自由な意思決定ができない状態にされているのであり、そうした自由な意思決定ができない状態下にある者が法人等に対して行う寄附行為は、本人保護の観点からして、財産権の保障の必要性が相対的に低いといえ、家族からの取消権を認めることによって、本人の保護と家族の生活の維持が守られるべきものといえる。

    したがって、新法案第10条については、上記内容に沿ったものに修正されるべきであり、現行案で家族の救済が足りると考えるのは大きな間違いである。

 8 結語
   以上から、当連絡会は、上記不足点を解消できる法案の修正と今臨時国会での成立を強く求めるものである。
 以上