声  明
2022年9月16日

◆旧統一教会の解散請求等を求める声明

全国霊感商法対策弁護士連絡会    
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
 代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
 事務局長 弁護士 川井康雄   
 
  本年7月8日に発生した安倍元首相銃撃事件を契機として、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会、以下「旧統一協会」という。)に関する諸問題について、政治家との関係に留まらず、その行ってきた違法行為の内容や被害の深刻さについても報道等を通じて社会に周知されつつある。今必要なのは、そうした実態を踏まえ、旧統一協会により発生した被害を救済し、また新たな被害を生み出さないためにはどうすべきか、ということである。

 旧統一協会の最大の問題点は、その伝道活動において、勧誘主体が宗教団体であることや当該活動の目的が宗教勧誘であること、入信後の宗教的実践活動を一切秘匿することによって、当初からそれらが明らかにされれば絶対に入信することのない者であっても信者にしてしまう、これにより被勧誘者の信教の自由や自己決定権を侵害する、という点にある。もちろん、全財産を投げ出すような献金をさせたり、ほぼ無報酬で苛酷な労働に従事させたり、その被害者に正体を隠した伝道活動をさせて新たな被害者を生み出させたりすることも重大な問題であるが、そもそもそうした活動を行う信者が生み出されるのは、上記のいわゆる「正体隠し伝道」がなされるからである。

 当連絡会は、この最大の問題点、そしてそれにより発生する様々な問題を解決するための種々の方策について、関係各所に対し、この機を逃さずに実施されるよう、以下のとおり求める。

 第1 声明の趣旨
1 旧統一協会に求めること
旧統一協会は、
(1) 今後の伝道活動においては、被勧誘者に対し、予め、勧誘の主体が旧統一協会であること、及び、勧誘目的が宗教団体への伝道であることを明らかにし、また、文鮮明をメシアと信じさせるまでに、入信後の献金及び伝道など宗教的実践活動の中核部分を明らかにし、被勧誘者の信教の自由、信仰選択の自由を侵害しないようにせよ。
(2)信者や信者であった者への勧誘経緯、従前の献金及び物品購入代金名下に支払わせた金額を全て調査し、当該信者を正体隠しの伝道により信者とした場合、及び先祖の因縁等で不安を殊更煽って献金をさせたり、当該信者の経済状態や生活状況からして過大な支出をさせたりしたことが明らかになった場合には、当該信者または信者であった者に真摯に謝罪し、損害の一切を賠償せよ。
(3)今後、信者から献金その他名目を問わず金銭を受領する場合には、出捐者、及び、金員の受領主体、目的、金額を明記した領収書を交付し、併せて、その一切を記録して会計・財務資料として保管し、献金をした者からの要求があった場合にはその記録を開示せよ。
(4)信者に対し、こどもへの信仰継承を行う際は、我が国が批准している子どもの権利条約第14条2項に基づき、「児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法」によるよう指導せよ。


2 解散請求
文部科学大臣は、旧統一協会に対し、宗教法人法第78条の2に定める報告質問権を行使するとともに、同法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。


3 カルト対策
(1)内閣総理大臣は、フランスなどカルト対策に先進的な諸外国の法制度・諸施策を参考に、基本法の制定も視野に入れた上で、被害抑止・救済のための法制度を整備し諸施策を講じられたい。
(2)文部科学大臣は、旧統一協会による過去の諸々の被害(金銭被害、家族破壊、労働力収奪、その他被害)に関し調査の上で、その結果を総括的な報告書をまとめられたい。

4 二世問題
厚生労働大臣、こども政策担当大臣及び各都道府県知事は、
(1)いわゆる「二世」と呼ばれるこどもが抱える問題について児童虐待と位置づけて、適切なこども施策を策定・実施されたい。
(2)その前提として、担当職員(特に児童相談所職員)に対し、専門家を招致して研修などを実施し、カルト団体の問題点及び「二世」が抱える問題点等についての知見を周知されたい。
5 学校における対策及び教育
(1)文部科学大臣は、大学生、高校生、中学生がカルト団体から被害を受けることを防ぐため、また、学校等に在籍する二世について適切に対応するため、学校等の関係各所に対し、必要な措置を講じるよう通知されたい。
(2)法務大臣は、こどもがカルト団体による被害を受けることを防ぐため、学校教育における法教育においてカルト団体及び二世問題を取り上げるよう関係各所に通知されたい。


6 サポート体制
内閣府特命担当大臣(消費者庁)は、カルト問題に苦しむ者やその家族へのサポートを行う宗教者や社会学者、心理学者ないしカウンセラーに対し、持続的、効果的な活動が可能となるようなあらゆる支援をされたい。 

第2 声明の理由
1 声明の趣旨1項「旧統一協会に求めること」について
(1)伝道に当たっての勧誘主体・勧誘目的の明示
 旧統一協会は、長年に亘って、正体を隠した印鑑販売や家系図講演会への勧誘等を通じてビデオセンターに誘導し、家系図を用いて霊界の恐怖や先祖の因縁等の話をし、被勧誘者の不安を巧みに利用して旧統一協会の教えを刷り込み、献金や物品販売代金名下に、被勧誘者本人のみならず、被勧誘者が管理する家族の財産等からも多額の金銭を支払わせ、被勧誘者とその家族を経済的破綻に追い込んで来た。旧統一協会は、2009年のコンプライアンス宣言以降はこのような行為を行っていないと主張するが、当連絡会のもとには、2009年以降も正体を隠した勧誘を受け、家系図を用いて先祖の因縁を説かれて多額の献金をさせられた事案の相談が寄せられており、全くコンプライアンスが貫徹されていないことが明らかとなっている。

 旧統一協会の上記のような伝道は単に経済的被害をもたらすものではなく、被勧誘者の生き方そのものに関わる信教の自由、信仰選択の自由を侵害するものである。今後二度とこのような人権侵害が繰り返されないようにするには、その伝道活動において予め「世界平和統一家庭連合」の名称と、勧誘目的が宗教団体への伝道であることを明らかにし、さらに、伝道教化の過程で、被勧誘者に宗教的回心を起こさせ、文鮮明をメシアとして信じさせる前に、救われるためには多額の献金をしなければならないこと、また、違法な伝道や献金勧誘活動に従事するよう求められること等その宗教的実践活動の中核部分を明らかにすることが必要である。

(2)既に発生した被害に関する調査と救済の必要性
上記の違法な伝道や献金勧誘・物品販売勧誘については多数の裁判において違法性と旧統一協会の責任が認められている。こうした、旧統一協会による違法な物品販売や献金勧誘は1980年頃から数十年に亘って全国津々浦々で行われてきており、そのうち裁判や交渉を通じて回復された被害はその一部に過ぎない。

 前記のとおり、旧統一協会は、2009年以来、コンプライアンスを徹底し、正体を隠した勧誘や家系図を用いた献金勧誘を行わないよう、また、信者の経済状態や生活状況からして過大な献金をさせることのないよう指導してきたと主張するが、この主張は、少なくとも2009年までの間は、正体を隠した伝道や不相当な方法での献金勧誘をし、信者に過大な献金をさせてきたことを事実上認めるものに他ならない。

 旧統一協会において、その被害の全容を調査し、被害について真摯に謝罪して弁償することは、公益性を認められた宗教法人としての当然の責務といえる。

(3)献金の際の書面交付
 旧統一協会は、献金を受領するにあたって領収書等の書面を作成しないため、信者において献金の受け取り主体や内容や金額を客観的に把握することが困難な状態にある。金員を受領する以上、本来、その裏付けとなる書面を交付することは当然のことであり、公益性を認められた宗教法人であればなおさらのことである。


2 声明の趣旨2項「解散請求」について
(1)はじめに
 旧統一協会は、①その伝道・教化活動、②献金・物品購入に対する勧誘活動、③そしてその教義において救いの中核となる、原罪を脱ぐための祝福式(合同結婚式)のいずれについても違法(③については違法ないし無効)とする判決が確定している宗教法人である。旧統一協会は、①なぜ信じるのか、②なぜ献金するのか、③なぜ結婚するのかという、その中心的活動の全てについて司法によって繰り返し問題があると判断された、極めて稀有な宗教法人ということができる。当連絡会のホームページには旧統一協会の責任を認めた約30件の民事裁判情報を掲載しているが、その中には旧統一協会の組織的不法行為を認定して民法第709条に基づく法人の不法行為責任を認めた事例も存在する(民事裁判情報No27、東京地判平成28年1月13日、東京高判平成28年6月28日)。また、2007年から2010年にかけて特定商取引法や薬事法違反による全国的な刑事摘発が続いたが、その手口は同様であり、とりわけ新世事件では「役員も販売員も全員が統一教会信者」「手法が信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義」「統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていた」「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」などと認定されている。

 このような団体に国が法人格を認め、税制上の優遇措置を享受させているのは明らかにおかしいのではないか。このことは、国民の皆様にも、広くご賛同頂けるのではないかと考える。

(2)解散命令請求、報告質問権の定め
 宗教法人法には、解散命令請求や報告質問権の定めが置かれている。具体的には下記のとおりである。このような定めが置かれているのは、宗教法人の設立について認証主義をとったことに伴い、生じやすい弊害の是正を図る趣旨とされており(逐条解説宗教法人法第4次改訂版375頁)、公益の確保の要請による。法が所轄庁に権限を与えているということは、裏を返せば、所轄庁には、公益に適うように権限を適切に行使する責務があるということに他ならない。

 なお、報告質問権の定めは、オウム真理教事件を契機として、平成7年改正にて新設された規定である。所轄庁において、解散命令事由などに該当する疑いがあると考えていても、これを確認する手段がなかったことから、所轄庁の権限を適切に行使するための判断の基礎となる客観的な資料が得られるようにしようという理由で設けられたものである。
 記
 (解散命令)第81条1項
 「裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
 一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
 二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたってその目的のための行為をしないこと。
 三(以下略)」
 (報告及び質問)第78条の2
 「所轄庁は、宗教法人について次の各号の一に該当する疑いがあると認めるときは、この法律を施行するため必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができる。(略)
 一 当該宗教法人が行う公益事業以外の事業について第六条第二項の規定に違反する事実があること。(※公益事業以外の事業の停止命令)
 二 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証をした場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていること。(※認証の取消し)
 三 当該宗教法人について第八十一条第一項第一号から第四号までの一に該当する事由があること。(※解散命令)」

 解散命令は、犯罪行為がないと請求できないなどということはない。第81条1項1号にいう「法令」とは、「宗教法人法はもちろん、あらゆる法律、命令・条例などを指す」とされている(逐条解説宗教法人法第4次改訂版378頁)。解散事由は、条文上、法令違反行為ないし目的逸脱行為と規定されているのであって、刑罰法規違反に限定されていない。とりわけ認証主義により緩やかに宗教法人格を認める建付けを採っていることとのバランスを考えても、解散命令について過度に厳格に解することは妥当ではない。さらに、現行制度上、宗教法人格の取得と税制上の優遇措置とがリンクする建付けとなっているため、解散請求の要件が厳しすぎると、問題のある宗教法人に不当な利益を享受させ続ける結果を容認してしまうという問題もある。
(3)介入消極論とその妥当範囲
ア 介入消極論
  しかしながら、所轄庁は、宗教法人法第1条の解釈、端的にいえば信教の自由の保障を理由として、国家が宗教法人に対して介入することについて、極めて消極的な姿勢をとってきた。これは過去の宗教弾圧の歴史、とりわけ我が国における戦前の国家神道の弊害を踏まえたものと考えられる。
 記
  (この法律の目的)第1条
  「この法律は、宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とする。
  2 憲法で保障された信教の自由は、すべての国政において尊重されなければならない。従って、この法律のいかなる規定も、個人、集団又は団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない。」
イ 妥当範囲
   しかしながら、旧統一協会については、そのような消極的な姿勢は妥当ではない。
信教の自由が重要な人権であるとしても、その行為が他人の権利・自由に対して何らかの害悪を及ぼす場合などにおいては、他の基本的人権と同じように、公共の福祉による制約を受けることもまた、憲法の定めるところである。現に、宗教法人法は、その解釈規定において、この理を確認する規定を置いている。
 記
(宗教法人法・解釈規定)第86条
「この法律のいかなる規定も、宗教団体が公共の福祉に反した行為をした場合において他の法令の規定が適用されることを妨げるものと解釈してはならない。」

  信教の自由は、宗教団体のためにだけ保障されているのではない。他人に対する積極的な働きかけを伴う伝道・教化活動には、自ずから内在的制約がある。伝道の対象となる国民個人の利益がまず最大限に保障されるべきであり、宗教法人法第1条はそのように解釈されるべきである。
そもそも宗教法人法による規制は、専ら宗教団体の世俗的側面だけを対象とし、その精神的・宗教的側面を対象外としているのであって、宗教団体の信教の自由に介入しようとするものではない。解散命令は、宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わず、解散命令に伴う影響は間接的で事実上のものに留まることは最高裁判所も述べるところである(最高裁決定平成8年1月30日)。
(4)当連絡会の意見
旧統一協会の問題は、国によって法人格を付与された宗教団体が、伝道の対象となる国民の信教の自由を侵害する違法な伝道・教化活動を長年にわたり継続的に遂行し、それによっておびただしい経済的・精神的被害を生じさせていることにある。旧統一協会は、国民の信教の自由を侵害することにより、教団を維持拡大してきた。このような行為が社会的に許容されるはずはなく、被勧誘者となった多数の方の信教の自由や財産権を侵害することで、公共の福祉が著しく害されている事実は明らかであって、所轄庁は、旧統一協会に対し、法に基づいて与えられた権限を積極的に行使するべきである。


   3 声明の趣旨3項「カルト対策」について 
     (1)カルト対策の必要性
 1984年、欧州共同体(EC)は、宗教カルト問題に関する「EC決議」を採択し、加盟各国に対してカルト問題に関する政策・行動の指針を示し、以後、各国が対策を進めてきた。

 例えば、フランスでは、2001年以来、刑法だけでなく関連諸法典で罰則を整備し(いわゆる反セクト法)、刑事的・民事的解散まで規定しており、これらはカルトへの多大な抑制効果があるとされている。セクトによる人権侵害への警戒及び闘争のための省庁横断的ミッション(対策本部)(通称Miviludes=ミヴィリュード)による省庁横断的かつ精力的な活動実績もあり、特に青少年教育と各地での研修が充実している。

 一方で、日本は、オウム真理教による無差別殺人事件という甚大なカルト被害を経験した国であるにもかかわらず、カルト対策のための抜本的解決策を見出せないまま今日に至っている。無施策の結果、旧統一協会の被害も根絶されないまま続いてきただけでなく、世界中から有象無象のカルトが集まる吹きだまりのような状況にすらなっている。

 日本でカルトに対処可能な法律としては、破壊活動防止法(1952年)、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)(1999年)等があるに過ぎず、これらも主としてオウム真理教とその後継団体が対象であり、カルト対策としては著しく不十分であり、諸外国に比べた後進性は甚だしい。学校教育、啓発活動も十分とはいえない。

 内閣総理大臣は、フランスなどカルト対策に先進的な諸外国の法制度を参考に、基本法の制定も視野に入れた上で、被害抑止・救済のための法制度を整備し諸施策を講じるべきである。

(2)被害実態の報告書について
 カルト対策に先進的なフランスでは、1985年4月に「ヴィヴィアン報告書」と称される議会報告書が出され、1996年1月には「フランスにおけるセクト」と題する議会報告書が出され、カルト現象についての10項目の問題点が明示された。

 ベルギーでは1997年4月にカルトに関する議会報告書が出され、市民に警戒が呼びかけられた。
 セクトに比較的寛容とされているアメリカでも、1995年10月、上院調査委員会によりオウム真理教に関する報告書がまとめられた。

 このように各国において作成されたカルトに関する総括的な報告書は、以後、各国がカルト対策を進める上で重要な基礎・指針となっている。

 一方で、日本においては、オウム真理教に関する総括的な報告書すら作られておらず、それが、後記のとおりカルト対策が著しく不十分である一因となっている。

 文部科学大臣は、まず、旧統一協会によるこれまでの諸々の被害(金銭被害、家族破壊、労働力収奪、その他被害)に関し、政府として十分な調査を行った上で、総括的な報告書にまとめるべきである。

    4 声明の趣旨4項「二世問題」について
     (1)「文鮮明はいつ暗殺してやろうかと冗談半分で考えています。」
 これは、当連絡会が2012年3月25日に開催した集会で講演をした旧統一協会の二世の言葉である。そして、「私は両親が憎いです。統一協会を許せません。」とも述べた。旧統一協会の二世の中には、両親を憎み、旧統一協会を憎み、教祖を憎んでいる者が少なくない。
 社会全体で「二世問題」に向き合い、助けを求める山上被疑者の声をすくい上げることができていれば、安倍元首相銃撃事件は防ぐことができた。このまま「二世問題」を放置すれば、第2、第3の山上被疑者が生まれ、新たな犠牲者を生むことになる。「二世問題」を放置することはもはや許されない。

(2)二世の抱える問題
 ここで述べる「二世」、「二世問題」とは、両親がともに、組織的に人権侵害行為を繰り返すカルト団体(宗教団体に限らない)に所属している「こども」及びこどもが抱える問題のことをいう。そして、特に一定程度人格が形成され、思春期を迎える小学校高学年以上のこどもを想定している。
 二世は、両親を通して当該宗教団体から以下のような人権侵害を受けており、児童虐待防止法上の児童虐待に該当するものも含まれる。

① 生まれたときから両親の信仰を強制される(信教の自由の侵害)
② 婚姻前の恋愛の禁止(幸福追求権の侵害)、信者以外との結婚禁止(婚姻の自由の侵害)
③ 学費負担拒否(教育を受ける権利の侵害)
④ 服装、下着、体毛処理、外出等の生活の全てを管理(幸福追求権の侵害)
⑤ 親の指示に従わない場合の鞭などによる体罰(身体的虐待)
⑥ 親の指示に従わない場合の監禁、軟禁(身体的虐待)
⑦ 布教を優先した育児放棄(ネグレクト)
⑧ 「悪魔、死ね」等の暴言(著しい心理的外傷を与える言動)
⑨ 体調不良時に病院への付添拒否(著しい心理的外傷を与える言動)
⑩ 二世であることを理由にした差別、いじめ(第三者による人権侵害)

(3)二世問題への対応
 上記のとおり二世問題は児童虐待の問題であり、それを前提として、二世が「自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ」、「その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送る」ことができる施策の策定及び実施が必要である。
 二世問題への対応の難しさは、①二世自身が自らの抱える問題を明確に自覚できていない、あるいは、自覚をしていても自らそれを外部に申告することができないこと、②両親に注意喚起、指導をしても、自らの行為は信仰に基づくものであり、間違っていないと信じ込んでいるため受け入れられず、むしろ、外部の介入が両親によるこどもに対する攻撃を増幅させる危険があることである。
 二世問題に取り組む者は、カルト団体、二世問題についての知見を備えておかなければならず、そのためには専門家による研修等の実施が必要不可欠である。
 特に二世と身近に接し、その生活態度等から異変に気づくことが可能な学校関係者、親族、近隣者、医療者などには二世問題について最低限の知識を身につけてもらい、問題を察知すれば速やかに児童相談所に通報できる体制が必要である。
 また、児童相談所においてもカルト問題、二世問題の知見を強化して専門性を有するケースワーカーの育成や職員の増強といった体制構築が必要である。また、特に二世本人から相談があった場合には、直ちに保護措置を講じる緊急性があるといえ、児童相談所の一時保護所だけではなく、「カリヨン子どもの家」など一時保護委託先の確保も必要である。

(4)両親の信教の自由との関係
 我が国が批准している子どもの権利条約第14条は以下のように定めている。
「1 締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。」
「2 締約国は、児童が1の権利を行使するに当たり、父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する。」
 両親がこどもに宗教教育を行う自由は認められているが(憲法第20条1項、自由人権規約第18条4項)、それは「児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法」によらなければならない。
二世が両親から受けている行為を個別具体的に見れば、こどもの人権を侵害し、児童虐待に該当する行為が含まれていることが多い。そうした行為はもはや親の信教の自由として保障されるものではなく、児童福祉法や児童虐待防止法に基づいて適切な対応が必要な事案である。

    5 声明の趣旨5項「大学における対策及び教育」について
     (1)第2、第3の山上被疑者を生み出さないためには、カルト団体のメンバーの増加を防ぐことが必要であり、そのためには学校におけるカルト対策及び法教育が必要である。

 学校はカルト団体によるメンバー獲得の草刈り場である。カルト団体は、正体を隠した勧誘をするため、学生はその正体に気づかないままメンバーにさせられ、もはや団体との関係を絶つことができない状態になって初めてそこが宗教団体であることを明かされるのである。

 たとえば、旧統一協会は、国公立大学や有名私立大学に「原理研究会(CARP)」という学生支部を作り、旧統一協会との関係や信者獲得目的であることを隠して、ボランティア活動やSDGsを銘打った活動を行っている。

 また、近年では旧統一協会以上に学校での信者獲得に成功している「摂理」は、旧統一協会以上に巧妙に正体を隠した勧誘を行っている。たとえば、退学合格直後の者のTwitterなどから発信される個人情報を収集する、当該アカウントに頻繁に「いいね」ボタンを押す、当該学生の反応を待つ、DMを送りやりとりをする、LINEでやりとりをする、リアルな面談に誘い出すといった手順で行われることがある。また、「摂理」は、その手法を用いる際には、勧誘する側が摂理信者であることが発覚しないように、通常使うアカウントとは別の勧誘用のアカウントを作るように指導するなどしている。

(2)正体を隠した勧誘は学生の信教の自由の侵害である。
 このように、カルト団体の勧誘は、活動目的や活動内容の実態を秘匿したまま行われるものであり、学生が、当該団体に関する十分な情報を得て、冷静に判断できる状況下で意思決定したものではない。

 正体を隠した勧誘は、勧誘を受ける者の信仰の自由に対する重大な脅威であり(札幌地裁平成13年6月29日判決)、また、社会的相当性の範囲を著しく逸脱するものであり違法である(同地裁平成24年3月29日判決)。

 前者は、「宗教上の信仰の選択は、単なる一時的単発的な商品の購入、サービスの享受とは異なり、その者の人生そのものに決定的かつ不可逆的な影響力を及ぼす可能性を秘めた誠に重大なものであって、そのような内心の自由に関わる重大な意思決定に不当な影響力を行使しようとする行為は、自らの生き方を主体的に追求し決定する自由を妨げるものとして、許されないといわなければならない。」と判示した。

 後者は、「一神教の信仰を得る、すなわち、神秘に帰依し教義に隷属するとの選択は、(中略)あくまで、個人の自由な意思決定によらなければならない。個人の自由な意思決定を歪める形で行われた、信仰を得させようとする伝道活動や信仰を維持させようとする教化活動は、正当な理由なしに人に隷属を強いる行為であり、社会一般の倫理観・価値観からみれば許されないことである。そのような伝道・教化活動は、社会的相当性の範囲を著しく逸脱するものとして違法とされなければならない。」と述べた上で、伝道活動につき、「神の教えであること(教えの宗教性あるいは神秘性)を明らかにした上で相手方に信仰を得させようとするものでなければならないとすべきである。神秘と事実を混同した状態で進行を得させることは、神秘に帰依するという認識なしに信仰を得させ、自由な意思決定に基づかない隷属を招くおそれがあるため、不正な伝道活動といわなければならない。」、「入信後に特異な宗教的実践が求められる場合、その宗教の伝道活動においては、入信後の宗教的実践内容がどのようなものとなるかを知らせるものでなければならないとすべきである。信仰を得させた後で初めて特異な宗教的実践を要求することは、結局、自由な意思決定に基づかない隷属を強いるおそれがあるため、不正な伝道活動であるといわなければならない。」と判示した。

(3)学校がカルト団体対策を講じるべき理由
  ア 在学契約に基づく義務
 大学と学生は在学契約を締結しており、大学は、学生に対し、在学契約に基づき、①「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」(学校教育法旧第52条(現第83条))という大学の目的にかなった教育役務を提供する義務、②これに必要な教育施設等を利用させる義務を負う(最高裁平成18年11月27日判決、判例時報1958号12頁)。そして、大学は、目的にかなった教育役務を提供する前提として、学生が教育を受けることができる環境を整える義務を負い、また、在学契約に附随して、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負う(佐賀大事件 佐賀地裁平成26年4月25日判決、判例時報2227号69頁)。このことは大学のみならず高校、中学も同様である。

 カルト団体は、教義に基づく教えを絶対とし、他の価値観を許容しない団体であり、そのような団体の教えは、多様な価値観を学ぶ場である大学の目的に馴染まない。また、カルト団体に取り込まれた学生は、勧誘活動、礼拝などカルト団体の活動が生活の中心となり、睡眠時間を削り、授業を休むなどし、中には休校、中退してしまう学生も少なくない。したがって、学校としては、学生がカルト団体に取り込まれることなく、教育を受けることができる環境を整えるために、カルト団体対策を講じなければならない。

 また、前述のとおり、カルト団体は正体隠しの勧誘により学生の宗教選択の自由を侵害するものであるから、学校は学生の信教の自由を守るためにカルト団体対策を講じなければならない。

  イ 社会に対する責任
 学校の中でも大学の社会的責任は大きい。
 大学は、教育研究の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する役割を担い(教育基本法第7条1項、学校教育法第83条、国立大学法人法第1条、第7条等)、また、助成金等を受けており(私立学校振興助成法第1条、第2条)、公共性を有している。

 大学がカルト団体対策を講じなければ、多くの学生がカルト団体に取り込まれ、その結果、その学生がカルト団体の信者として、第三者の権利を侵害する違法行為に関与することになりかねない。カルト団体対策を講じないという大学の不作為は、大学の役割、公共性を放棄するもので、社会的責任を果たしているとはいえない。

(4)学校がカルト団体対策を講じることについての許容性
 カルト団体は、学校のカルト対策について、信教の自由の侵害であると主張する。しかし、正体を隠した勧誘行為は違法行為であり、このような勧誘方法は憲法で保障される信教の自由の範囲外である。正体を隠した勧誘行為を禁止し、これを予防する措置を講じることは何らカルト団体やその信者の信教の自由を侵害するものではない。

 この点、前述の佐賀大事件判決は、「統一協会やその信者が、霊感商法等の社会問題を起こし、多数の民事事件及び刑事事件で当事者となり、その違法性や責任が認定された判決が多数あることは公知の事実であること、被告Y1が特定の宗教の教義等について意見を述べることは信教の自由として許容されること、被告Y1は、被告Y2大学の教員として、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負っていると解されることなどに鑑みると、被告Y1が、統一協会の教義等について、適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べることは社会相当性を有する行為」であると判断しており、学校が適切な方法でカルト団体への対策を講じることは許容される。

(5)文部科学大臣による通知及び法教育の必要性
 学校の一部にはカルト対策を講じている学校もあるが、ごく一部である。そして、中学校、高校ではほぼ皆無といって良い。中学校、高校においてカルト対策が必要であるという問題意識を周知するためには、文部科学大臣が、全国の学校に対して一斉にカルト対策を講じるよう通知する必要がある。

 また、カルト団体は、勧誘対象を中学生、高校生にも設定しており、特に大学合格直後の学生が最も狙われている。そのため、大学入学後のカルト対策では手遅れである。中学生、高校生の時にカルト問題についての法教育を受けていれば、たとえ正体を隠した勧誘であってもそれに気づき、危機を回避できる可能性がある。法教育を所管する法務大臣が、中等教育における法教育の一環としてカルト問題を取り上げるよう教育機関に通知する必要性がある。

    6 声明の趣旨6項「サポート体制関係」について
     (1)当連絡会に寄せられる相談の内、かなりの割合を占めるのは、家族がカルト宗教に入信してしまった、何とか取り戻すことはできないだろうか、どうすれば話し合いの機会を持てるのだろうか、という家族からの相談である。

(2)こうした相談者は、ある日突然、家族が信者になっていることを知り、愕然とし、とっさにその宗教を非難したり教義や活動を否定したりしてしまいがちである。また信者の側も教団の指示により、家族との間の距離を置くなどし、家族間の溝が深まってしまう。

 こうした、信者と非信者とに分かれてしまった家族には、宗教的な知識を有する宗教者や経験豊富なカウンセラー、同種の経験をしている元信者など(以下「カウンセラー等」という)からの支援が不可欠である。

 また、入信中の信者や、特に脱会後間もない元信者は、精神的に不安定になっているケースが多く、これらの者に対するカウンセリングも不可欠である。

(3)こうしたカウンセラー等は、現在では、国からの援助が全く無いまま、その極めて難しい業務に従事し、その一方で、カルト宗教からの攻撃のリスクに晒されるという境遇にあり、このため、後継者の育成も進まない状況にある。

 これらカウンセラー等の業務は、カルト宗教被害に遭っている本人、その家族にとっての消費者被害の救済のための不可欠の活動といえるのであり、消費者被害救済の一環として、国からの充実した支援が求められるところである。
      
     以上