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◆損害賠償請求事件 東京高裁判決(平成28年6月28日)

注:遅延損害金や証拠番号等は省略しています。
  また、「一審被告」と記されている部分は全て「家庭連合」と書きかえています。
  別紙三枚は、添付していません。


判  決


東京都渋谷区松濤1丁目1番2号
 控訴人・被控訴人(一審被告)
         世界平和統一家庭連合
 同代表者代表役員   徳 野 英 治
 同訴訟代理人弁護士  福 本 修 也
東京都品川区
 被控訴人・控訴人(一審原告)
            A
 同訴訟代理人弁護士  山 口   広
            木 村   壮


主  文


一審被告の控訴を棄却する。

一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

⑴一審被告は、一審原告に対し、3789万0888円及びこれに対する平成21年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

⑵一審原告のその余の請求を棄却する。


事 実 及 び 理 由



第1 一審被告の控訴の趣旨
  (略)


第2 一審原告の控訴の趣旨
  (略)


第3 事実の概要

 本件は、一審被告(旧名称世界基督教統一神霊協会)の信者であるB子の夫であったAが、Bと婚姻中の平成7年8月頃から平成21年8月頃までの間にBが、Aの意思に反して、A名義の銀行等の口座から多数回にわたり出金するなどして家庭連合に献金等の名目で金銭を交付し続けてAに損害を与えたのは、家庭連合の組織的活動等によるものであるなどと主張して、家庭連合に対し、民法709条(家庭連合の組織的な不法行為責任)、同法715条(Bに献金等を実行させた幹部信者又はB自身を被用者とする使用者責任)又は同法703条、704条前段(悪意の受益者の不当利得返還義務)に基づき、1億0046万6623円(経済的損害8446万6623円、慰謝料800万円、弁護士費用800万円)を求めた事案である。
  原審は、民法709条に基づく家庭連合の組織的な不法行為責任を認め、Aの請求を、3428万6623円(経済的損害3118万6623円、弁護士費用310万円)を求める限度で認容し、その余を棄却した。
  そこで、家庭連合が、原判決中家庭連合敗訴部分を不服として控訴し、他方、Aが、原判決中A敗訴部分を不服として控訴するとともに、家庭連合に対する請求を、6326万6623円(経済的損害5511万6623円、慰謝料500万円、弁護士費用315万円)を求める請求に減額した。

 前提事実、争点及び当事者の主張
  (略)


第4 当裁判所の判断

 当裁判所は、Aの請求は、民法709条に基づき、家庭連合に対し3789万0888円(経済的損害3374万0888円、慰謝料100万円、弁護士費用315万円)を求める限度で認容し、その余を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3(原判決別紙を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)

 「そして、Aが除外した教育費の中には、長女及び二女の中学校、高等学校及び大学の各授業料及び入学金並びに英会話学校、家庭教師、絵画教室及びピアノのレッスンの各費用、長女の美大予備校の費用並びに大学の教材費及びパソコンの費用、二女の受験塾の費用及び大学院の授業料等のほか、長女のアロマの専門学校の費用等も含まれており、その総額は平成7年から平成21年までの14年間で3641万7300円、1か月の平均で約21万6800円もの額に及ぶものであるから、これとは別途、本件支出5、7、172325265456646688を全て教育費のみに使用したとするBの説明をそのまま採用することはできない。特に、本件支出88の50万円については、Bが二女の大学院入学金として使用したと説明するものであるところ、二女の大学院入学が平成20年4月であるのに対し、本件支出88がされたのがその1年以上前の平成19年3月であることからすると、上記Bの説明は時機的に無理がある。
  もっとも、教育費の中には、制服代や特別な教材費等の臨時の支出が必要となるものもあり得るところであるから、上記各支出のうち1か月当たり10万円程度の部分は臨時の教育費の支出と認めるのが相当である。
  そうすると、本件支出5、7、172325265456646688については、それぞれの支出額のうち10万円を超える部分が使途不明金であると認められる。」

(2)

 「もっとも、教育費については、前記のとおり相当額の支出が既に除外されてはいるものの、二女の平成7年度(小学4年時)の教育費は除外されておらず、同年度においても少なくとも絵画教室及びピアノのレッスンの各費用合計17万円程度の支出があったことがうかがわれるから、この金額の限度ではBの説明を排斥することができない。また、経済革命倶楽部に出資したとする200万円についても、弁論の全趣旨によれば、経済革命倶楽部が、当時多数の消費者から高金利をうたって莫大な資金を集めており、平成9年にその主犯が詐欺罪で逮捕・起訴されたことが認められるから、Bの説明を排除することができない。したがって、本件支出1については、支出額から217万円を控除した3362万4900円の限度で使途不明金と認められる。」
  (中略)

(5)

「本件支出20の100万円については、BがDに貸したと説明するものであるところ、 (中略)後記2⑷アのとおりの控除の対象として使途不明金に計上するのが相当である。」
  (中略)
  「また一方で、そのような支出の中には、美術作品や音楽の鑑賞費用等の生活費とも教育費とも解釈することのできる支出が含まれ得るところである。このような観点を踏まえつつ、前記のとおり、Aが使途不明金であると主張する各支出が、1か月の平均的な生活費として約50万円、教育費として約21万6800円の各支出を既に除外しているものであることを考慮すれば、上記の臨時の生活費の額は、多くとも1か月当たり10万円程度と認めるのが相当である。
  そうすると、③に分類される支出については、当該支出の各月の合計額からそれぞれ10万円を控除した残額が使途不明金であると認められる。
  ただし、本件支出131の25万円については、家庭連合が、控訴審において、BがAのためにカフスボタン等の宝飾品を購入したときの支出であり、使途不明金ではないと主張するに至った。控訴審で提出されたBの陳述書(乙50)にも同旨の記載がある。証拠(乙49の1)によれば、本件支出131がされた日と同日付けの『フォーチュン』発行の10万円の領収書及び『クリスティーナ・ハン』発行の8万円の領収書が存在することが認められ、これらの領収書の発行者がどのような業者であったかは定かではないものの、Aからの具体的な反論がないので、少なくともこれらの領収書に係る合計18万円の支出についてはBの説明を排斥することができないから、これを使途不明金とみとめることはできない。したがって、本件支出131については、残余の7万円のみを③に分類される支出と扱うのが相当である。」
  (中略)

(13)

  「なお、家庭連合は、控訴審においてBがFに合計550万円、Dに合計251万5000円をそれぞれ貸し付け、Eの花屋の経営の援助に合計855万円を費やしたと主張するに至った。控訴審で提出されたB及びこれらの関係者の陳述書にも同旨の記載がある。しかしながら、これらの主張は、Dに対する100万円の貸付け(本件支出20)を除けば、控訴審で初めて具体的な金額等が主張されるに至ったものである上、客観的な裏付けとなる証拠としてはFの作成した合計238万円の金銭借用証書しかなく、B及び上記関係者らの陳述書の記載を直ちに採用することは困難である。
 (中略)

(15)

 「、Bは家庭連合の信者であり、後記のとおり、既婚女性である信者には夫の家系を救う使命があり、そのためには夫の意思に反してでも夫の金を献金等として拠出すべきであるとの家庭連合の義務に感化され、これに共鳴して献金等を行っていたものと推認されること」を加え、「(家庭連合は、控訴審において、弥勒仏4体〔甲B60の2〕につき、●●から期間を定めずに預かったものである旨を記載したBの陳述書を提出するに至ったが、所有者とされる者の陳述書等は提出されておらず、上記Bの説明を直ちに採用し難い上、仮に、弥勒仏4体が他人の所有物であったとしても、それだけでは上記()の推認を左右するほどの事情とはいえない。)」

(16)

「そして、上記の指示、特に壮婦である信者に対する家庭連合の指示は、既婚女性である信者には夫の家系を救う使命があり、そのためには夫の意思に反してでも夫の金を献金等として拠出すべきであるとの、証人Gの証言からうかがわれる家庭連合の教義に基づいて行われていたものと認められ、家庭連合は、このような教義に感化されてこれに共鳴した既婚女性である信者から、夫の金を献金として拠出させていたものと認められる。家庭連合は、証人Gの証言に信用性がない旨を主張するが、証人Gは、家庭連合の元信者として家庭連合の布教活動に深く関わっていた者である上、家庭連合が、前記のとおり、信者に対し、清平修練会における先祖解怨式と先祖祝福式への参加を奨励し、先祖解怨献金及び先祖祝福献金の必要性を説いていること、家庭連合の幹部(会長代理)が、機関誌の中で、全ての所有権を真の父母である文鮮明に返還し、更に神に返還しながら、神の国への入籍をすることがこれからの人類に課せられた最も重要な課題である旨を説いていること(甲A63)などと照らし合わせれば、上記家庭連合の教義に関する証人Gの証言は信用することができる。」
  (中略)

(18)

 「老後の蓄えとなる預金が奪われたという経済的損害を受けたことによる精神的苦痛については、経済的損害それ自体と別個に金銭的な評価をしなければならない事情を認めることができないが、BがAの意に反して長年にわたり合計6000万円余りものAの預金等を取り崩して費消したことが婚姻破綻の有力な原因の一つとなり、これによりAが相当程度の精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認されるところであり、うち3000万円余りの取崩しについては、前記のとおり、家庭連合の指示によるものと認められるのであるから、家庭連合は、Aに対し、婚姻破綻による精神的苦痛に対する慰謝料を支払う義務があるものというべきであり、その金額は100万円が相当である。」
  (以下略)


  東京高等裁判所第7民事部

   裁判長裁判官  菊  池  洋  一
      裁判官  佐 久 間  政  和
      裁判官  古  田  孝  夫