◆損害賠償請求事件 東京地裁判決(平成19年5月29日)

平成一九年五月二九日判決言渡

判 決

熊本県
原    告
同訴訟代理人弁護士 渡 辺   博
川 井 康 雄
水 野 英 樹
東京都渋谷区松濤一丁目一番二号
被    告 世界基督教統一神霊協会
同代表者代表役員 小山田 秀 生
同訴訟代理人弁護士  鐘 築   優
愛知県
被    告 株式会社A
同代表者代表取締役 B
愛知県
被    告 B
福岡県
被    告 C
福岡県
被    告 D
熊本県
被    告 E
上記五名訴訟代理人弁護士
福 本 修 也

主    文

(1) 被告世界基督教統一神霊協会は、原告に対 し、四四三八万二七六三円及びこれに対する平成一七年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告株式会社Aは、原告に対し、被告世界基督教統一神霊協会、被告B、被告C及びEと連帯して、一七四万円
(3) 被告B、被告Cは、原告に対し、被告世界基督教統一神霊協会と連帯して、一七五〇万二七六三円
(5) 被告Dは、四五六万二七三〇円
(6) 被告Eは、一二一九万円
原告のその余の請求を棄却する。
(編集部注:主文1項の3.〜6.は省略部分がある)

事    実

第1  (略)
第2 事案の概要等
 本件は、原告が、被告統一協会、被告統一協会の支配下にあって被告統一協会による組織的な違法資金獲得活動に従事していた会社であって、被告Bが代表取締役を務める被告株式会社A、被告統一協会の信者であって、被告統一協会による組織的な違法資金獲得活動に従事していた被告B、被告C、被告D、被告E及び他の被告統一協会の信者らによる違法な霊感商法をはじめとする違法な資金獲得活動の被害にあったことにより、財産上の損害、慰謝料及び弁護士費用相当額の損害が生じたとして、民法七〇九条の不法行為責任に基づき(なお、被告統一協会に対しては、選択的に使用者責任にも基づき)、1.被告統一協会に対し、四九二二万三〇二三円(ただし、一八二〇万三〇二三円の範囲で被告A及び被告Bと、一八一一万二七六三円の範囲で被告Cと、四五六万二七六三円の範囲で被告Dと、一三四〇万円の範囲で被告Eと、それぞれ連帯して)及びこれに対する最後の不法行為の後の日であり、被告統一協会に対する訴状送達の日の翌日である平成一七年一月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(中略)各求めた事案である。
(当事者の主張) 略

理由

 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件の経緯等は以下のようなものであったと認められる(争いのない事実も含む。なお、上記証拠中後記認定に反する部分は採用しない。)。
(1) 当事者等
被告統一協会及びその教義について
 被告統一協会は、文鮮明を創始者でありかつ救世主(メシア)とする宗教団体であり、我が国においては昭和三九年に設立登記された宗教法人である。
 被告の主要な教義ないし考え方は以下のとおりである。
(ア) 創造原理
 創造原理とは、人間が堕落しないで神の創造目的を完成していたならば、その世界は「三大祝福」が実現された世界であったと説くものである。
 三大祝福とは、個性完成、子女繁殖、万物主管であり、個性完成とは神を中心として心と体が一体となることをいい、子女繁殖とは、個性完成した男性と女性が結婚して子女を繁殖し、神を中心とした家庭を作ることをいい、万物主管とは、人間が万物世界に対する主管性を確立し、神の願う本然のあり方、即ち、神を中心とした愛と信条で万物を主管(管理)することをいう。
(イ) 堕落論
 堕落論とは、人間始祖が未だ成長期間にあった段階で天使長(サタン)の誘惑を受けて堕落し、人間は万物以下の存在に堕し、人間も万物もサタンの主管下に落ちたと説く教えである。
(ウ) 復帰原理
 復帰原理とは、堕落して神の愛の主管圏からサタン主管下に落ちた人類を神は見捨てることができず、人間始祖の堕落時より、今日に至るまで、地上に救世主(メシア)を送り人類を救うために努力してこられたと説くものである。
 そして、万物復帰とは、広義には、堕落によって人間が失ってしまった神の愛と心情を中心とした万物に対する内的な主管性を復帰(回復)することにあり、狭義には、堕落し、万物より劣る身になった人間が親なる神の御元に帰るために、人間より清い万物を神の前に献祭し、神への信仰と愛とを取り戻すという手続をいう。
 なお、献金という宗教行為も、上記趣旨に照らすとかかる万物復帰の一様態であるということができる。
被告Aの性格について
 被告Aは、その代表者は被告統一協会の信者であり、被告統一協会が取り扱うべき文書について取り扱いを行っていて、F、Gなどの名義による口座を持ち、被告統一協会に対する献金を受け付けているほか、被告統一協会の教義についての勉強会を行うなど、被告統一協会の教義に基づいた、あるいはその実践活動などを行っている。
 これらの事実に、被告Aの清平行きのツアーの案内及び行程表においては被告Aは、「H」と表記され、被告Bがその筆頭とされていること、原告や他の被告統一協会の信者(●●)においてもその様に認識していることなどに照らせば、被告Aが、被告統一協会の下部教会であるHとしての活動を行っており、被告Bがその代表の立場にあったことが認められる。
 被告Aらは、被告Aと、被告統一協会とは全く別個の組織であると主張するが、上記事実関係に照らし採用しない。
(2) 本件各献金等勧誘行為
ア  献金等勧誘行為1、2(印鑑二一万円、壺、念珠一八〇万円)について
(ア) 献金等勧誘行為1(印鑑二一万円)について
 昭和五八年七月ころ、●●及び●●は、印鑑を販売する目的で原告方を訪問し、「手相や、姓名判断に興味がありますか。無料で手相を観てあげます。」などと述べて原告宅に上がり込んだ。そして、●●が原告の手相は良い手相であるなどとほめるなどしながら、原告の家族関係を尋ね、原告の妹が、生まれてすぐに亡くなったこと、原告の母が産後の肥立ちが悪かったことを理由に亡くなったこと、原告の父も若くしてがんで死んだこと、原告の兄が、原告の本家に大学進学を反対されて自殺をしたこと、長女がB型慢性肝炎であることが判明したところ、その原因は、母子感染が疑わしいと医師からいわれたことなどを聞き出した。
 ●●と●●は、原告に対し、手相について、良い手相であるが少し心配なところがあるので、運勢のよく分かる先生に一度きちんと見てもらった方がいいなどと話し、また、原告、原告の長女、長男の姓名判断を行った上で、原告に対し、原告の実家の先祖は武士で、先祖は人を殺めたことがあり、このためたくさんの恨みを負っており、このため、原告の父母や兄妹が早死にしていると話した。また、このままでは、今後、息子さんや娘さんにふりかかってくるので、因縁から守る傘として、印鑑を購入することが必要である旨、申し向けて、二一万円の印鑑を購入させた。
 この際、●●と●●は、原告に対し、善なる行為は隠れてしてこそ価値がある(陰徳善行)などといい、原告の夫に印鑑を購入したことを秘密にするように申し向けた。
 被告統一協会は、上記事実を否認し、証人●●は、同証人が当時から被告統一協会の信者であったことを認めるが(現在は、Iの教域長)、水子の話は出たものの、因縁話はしていないなどと供述する。しかし、同供述は、ともに勧誘に加わっていた●●の陳述書(甲七二)に照らして採用できないのみならず、印鑑販売の主体であるJは被告統一教会の信者の組織であって、その活動の一環として印鑑を販売していたというのであり、●●がその後原告をビデオセンターにつないでいること(乙イ5)、被告統一教会の教義そのものが、先祖の悪業がその子孫の病気の原因であるとして、これを免れるための献金を要求していること(甲一四八、一四九、甲一五一の一・二、甲一八〇、甲A七八、七九、八三ないし八六)、後記認定のとおり、●●を含め原告とかかわりをもった被告統一教会の信者が、一貫して、原告に対して、殺傷因縁や色情因縁がある旨述べて、物品の購入をさせたり、献金を求めたりしていることに照らせば、当日は二時間以上話していること(甲五六)からすれば、水子の話が出て、殺傷因縁や色情因縁の話が出なかったはずがない。
(イ) 献金等勧誘行為2(壺、念珠一八〇万円)について
 その後、●●は、前項の後程なく、原告に対し、M家の先祖も武士で、過去に人を殺めたことがある(殺傷因縁)ことから、原告の娘が慢性肝炎になるなどし、また、M家には色情因縁もあることから、原告の息子は結婚できず、M家が途絶えてしまうなどと申し向けた上、運勢のよく分かる有名な先生が近所に来ているので観てもらうと良いなどと言って、展示会場に連れ出した。
 展示会場においては、被告統一協会の信者が、原告及び原告の夫の先祖は武士で、過去に人を殺めたことがあり、そのため先祖は皆、地獄におり、殺傷因縁で苦しみ、原告に助けを求めていること、M家には、色情因縁もあり、原告の息子はこのままでは結婚もできず、この状態を救うことができるのは、原告だけである旨申し向けた上で、修行を積んだ人が丹誠込めて作った特別な壺を購入すれば地獄で苦しんで助けを求めている先祖七代を救うことができる、先祖の因縁から守られるためには二つの念珠も必要であるなどと告げて、原告に、壺及び念珠を一八〇万円で購入させた。
献金等勧誘行為3(壺五〇万円)について
 ●●は、上記壺及び念珠の代金をビデオセンターに持ってくるように原告に申し向け、それにしたがって、ビデオセンターにやってきた原告に対し、ビデオを見ていくことと、ビデオセンターに通うことを勧めた。
 原告は、かかる勧誘に従い、ビデオセンターに通うようになり、上記被告統一協会の教義を学ぶようになった。
 ●●事務局長は、当時パート勤務をしていた原告に対し、それを辞め、ビデオセンターでの受付をやるようにいい、原告はそれにしたがった。
 昭和五九年九月ころ、●●事務局長は、原告に対し、M家のための壺の他に、原告の実家にあたるN家の先祖を救うために、もう一つ壺を授かる必要があるので二個目の壺を購入するよう指示し、原告に五〇万円で壺を購入させた。
 その後、原告は、ビデオセンターが無くなったことなどから、Kなどに通うようになった。
 昭和六三年ころに原告らを含むK所属の被告統一協会の信者が韓国の済州島に出かけた際、原告の夫であるOは、原告が被告統一協会に通っている事実を知り、原告が被告統一協会から購入した一二〇万円の壺を割るとともに、原告に被告統一協会に通うのを辞めるよう説得したため、原告は、原告はKの上司と相談した上、しばらくKに通うのを控える様になった。
献金等勧誘行為4ないし14(祝福感謝献金 K分一四〇万円)について
 Oは、平成七年ころ、喉頭がんを発症して●●大学病院に入院することとなり、原告は、Oの病状に不安を抱えるようになった。
 橋本は、平成九年六月ころ、原告に対し、原告の夫であるOは、壺を割った結果、喉頭がんという病気になったのであり、写真祝福を受けないと病気は良くならないので、祝福感謝献金を一四〇万円払って、写真祝福を受けるように申し向けて、原告に対し、献金等勧誘行為4ないし14記載の献金をさせ、写真祝福を行った。
献金勧誘行為15から25(総生蓄献納解怨祭献金Q分二〇〇万円)について
(ア) 献金額について
 原告が、被告統一協会等にした献金について記録をつけていたノート(甲三二)においては、「H10.10.28 12」、「H10.12.10 10」、「H11.1.19 3」という記載があり、このノートの他の部分の記載においては、日付及びその日にした献金の額を記載(ただし、万単位)していることなどに鑑みれば、それぞれ平成一〇年一〇月二八日に一二万円、平成一〇年一二月一〇日に一〇万円、平成一一年一月一九日に三万円の献金を行ったことを記録したとみるのが合理的というべきである。
 原告は、上記のほか、平成一一年一一月ころに、さらに三〇万円の献金(総生蓄献納解怨祭献金)をしたと主張する(献金勧誘行為25)が、甲三二には、これに相当する記載はなく、これを認めることはできない。たしかに、甲三二においては、「総生蓄 174(11.11.2日現在)」及び「総 200」との記載があるが、平成一一年一一月二日までの献金額をどのように合算すれば一七四万円になるのか不明である(献金等勧誘行為15から24において献金された額を合計しても一七〇万円にしかならない。)。しかも、「総生蓄 174(11.11.2現在)」との記載が平成一一年一一月二日までの総生蓄献納解怨祭献金の献金額を正確に示すものだとすると、その後、原告は二八万円を献金しているから(献金等勧誘行為23、24)、合計で二〇〇万円の献金をしたということと齟齬が生じること、他の献金については、原告はノートにその献金額を記載しているところ、本件について記載しない特段の理由は伺われないことなどからすれば、甲三二をもって献金等勧誘行為25の献金があったと認めるには足りない。
(イ) 献金等勧誘の様態について
 Dは、平成一〇年一〇月ころ、原告に対し、Oは、統一協会に反対しているので、天罰を受けた、万物の所有権を天に返さなければ、M家の先祖は暗い地獄で苦しみ続ける、原告の家族四人(原告、O及び二人の子ら)の四人分の献金を一人でしなければならないと述べた。
 また、同じころ、●●壮年部長は、原告に対し、神様の恨みを解怨するためには、失われた万物の所有権全体を天に返さなければ、M家の先祖は暗い地獄で苦しみ続ける、総生蓄献納解怨祭献金については二〇〇万円の献金をするように。と原告に申し向けたため、原告は、被告統一協会に対し、献金等勧誘行為15から24記載の献金を行った。
献金等勧誘行為26から28(飛行機献金四〇万円)について
 平成一一年九月ころ、●●教域長は、原告に対し、文鮮明及びその配偶者は、毎日、世界中を飛び回って被告統一協会の信者のために話をしているが移動に時間がかかるので、文鮮明らに対し、世界一八五カ国を飛び回れる世界で一番速い飛行機を捧げるので、献金をするようにと申し向け、●●も、原告に対し飛行機献金をするよう念を押して、原告に献金等勧誘行為26から28の献金をさせた。
献金等勧誘行為29から32(先祖解怨・先祖祝福献金二八〇万円)について
(ア) 献金額について
 甲三二号証には、「H11年12月27日月 501.」、「H12年1月18日 1002.先祖供養」「H12年1月27日木703.(先祖祝福)」、「H12年2月4日金604.先祖祝福」、「終 280 1代〜7代)」と記載されていることからすれば、原告及び被告統一協会の間で争いのない献金等勧誘行為31、32の献金のみならず、献金等勧誘行為29、30の献金の事実についても認められるというべきである。
(イ) 献金等勧誘の様態について
 ●●壮年部長及び●●は、平成一一年一二月、原告に対し、原告の先祖は、地獄で未だ苦しんでいて依然として浮かばれていないところ、七代前までの先祖を救い、供養するためには、先祖解怨及び先祖祝福献金として、原告が持っているお金を、世のために役立つように使ってもらわなければならない旨申し向けて、原告に献金等勧誘行為29から32の献金をさせた。
 なお、先祖の解怨とは清平において行われる儀式であり、被告統一協会の信者に対し、最終的には一二〇代前までの自己の先祖についてすることを推奨されているものである。
 そして清平においては、「皆さんの体の中には、韓国人の霊がいるのです。」、「恨みをもって身悶えしながら狂って死んだ霊たちが、ついているということを知らなければなりません。」、「焼け死んだ霊たちがアトピーという皮膚病を誘発させます。その霊を分立して、生命水で洗ってぬぐってしまわなくては、絶対直りません。」「早くしろ!何か事故を起こし、病気にかかって死ぬようにしろ、と霊が言います。どれほど苦痛をたくさん与え、そのようにするかもしれません。」、「先祖が犯した罪によって、今日下された刑罰が何でしょうか?病気です。」「今後、言葉を誤ったら、どのような刑罰が下されるか、口のきけない人になるのです。心情を蹂躙すれば口のきけない後孫が現れるのです。」などという教えがなされることがある。
献金等勧誘行為33から39(●●のカウンセリングによる愛天愛国献金三〇〇万円、聖本献金Q分三八〇万円)について
 ●●は、平成一二年三月二三日、原告に対し、●●について、一九歳の時、霊界をさまよい見て以後、修行生活をなして、霊界の実在を語っている人物であると紹介した。
(ア) ●●は、平成一二年三月二三日、原告に対し、原告の家系図を見るなどした上、原告の夫であるOが咽頭がんになったことなどを原告から聞いた上で、Oが咽頭がんになったのは、原告に対し、被告統一協会を辞めるように(口を使って)迫害したからである、M家は韓国から追われて逃げてきた家庭なので恨みが深いなどと申し向けて、原告とその弟の家庭で蕩減しなければならないなどと申し向けた。
(イ) ●●は、平成一二年四月二〇日、原告に対し、原告の先祖の恨みは強く、沖縄で戦死した原告の亡父がその代表である、先祖を解放するために原告及び原告の弟の配偶者とともに献金を行わなければならないなどと申し向けた。
(ウ) ●●は、平成一二年五月二七日、原告に対し、M家は韓国から追われて逃げてきており、恨みが深く、信仰心はなく、金銭に執着心があるため、M家は子孫が絶えてしまう、M家の人は皆、サタン数である6のつく年や月に死んでいるなどと申し向けた。
 そして、さらに、そうした事態を避ける為には、サタン数である六月が来る前の五月一杯で聖本を授からなければならない、聖本を授かるのに必要な三〇〇〇万円のうち、三文の二の金額は、原告ができるものをかき集めてがんばらないといけない、Oが、確かに持っているであろう●●證券の資金を利用してでもできるだけの献金をしなくてはならないなどと原告に申し向けることもした。
(エ) また、●●は、平成一二年三月下旬ころ、原告に対して、上記アの●●の発言等を踏まえて、Oは言葉で罪を犯して、喉頭がんになっている。M家の先祖を解放するのは、原告の使命であるなどと申し向け、●●壮年部長も、原告に対し、愛天愛国献金を三〇〇万円献金するように指示をした。
(オ) これらの結果、原告は献金等勧誘行為33から 39の献金を行った。
献金等勧誘行為40、41(祖国光復献金一七〇万円
 ●●の妻及び●●は、原告に対し、平成一二年七月二日、原告に対し、原告の先祖を救うためには、世界を統一し、悪を取り除き、善のみを中心とした平和の国をこの地球上に築いていく必要があること、被告統一協会の信者は、祖国光復の過程において前進しなければならない、韓国は韓国なりに、日本は日本なりに責任を果たさなければならない。そのためには自分の家庭とか、一族を犠牲にしてでも使命を完遂しなければならない、日本はエバ国家としての責任を果たすためにも献金しなければならないなどと申し向けたため、原告は、平成一二年七月四日、原告名義の●●證券の口座を解約し二〇五万八六八七円の資金を捻出するなどして、献金等勧誘行為40、41の献金を行った。
献金等勧誘行為42から57(●●の再度のカウンセリングによる聖本献金L分七八〇万円、高麗人参濃縮茶代金二万円)
(ア) 献金額について
 甲三二号証の記載などによれば、原告が献金等勧誘行為53から56記載の金員の出捐をしたことは明白である。なお、献金等勧誘行為53から55の金員の出捐の趣旨については次項で検討する。
(イ) 献金等勧誘の様態について
a  直接の献金について
 ●●は、原告に対し、聖本を授からないといけないなどと申し向け、また、●●のカウンセリングを再度受けさせるなどした。
 ●●は、平成一二年一〇月二四日、原告に対する通算四回目のカウンセリングにおいて、原告に対し、「M家の先祖二一代までが、韓国で人の生命や財産を奪うなどの罪を犯しており、ご主人が喉頭がんや、脳溢血になったのも、M家二一代までの罪に由来している、聖本献金三〇〇〇万円の七〇パーセント、つまり二一〇〇万円を超えて献金すると、霊界がだんだん変わってくるなどと申し向け、二一〇〇万円を超える聖本献金をすることを勧誘した。
高麗人参濃縮茶代の付け替えについて
 ●●は、平成一二年一一月一〇日、Lにおいて、原告に対し、高麗人参濃縮茶を四二万円で買うように申し向けた。
 そして、その際にかかる代金のうち四〇万円を、聖本献金として評価すると申し向けた。
 同様に、●●は、原告に対し、平成一二年一一月一四日、「人参茶を四〇万円で買うように。その代わり、この四〇万円は、聖本献金とします。」、「現金二〇万円は今日、この場で支払い、残りの分は私(●●)の名義でクレジットを組みます。月々二万四二二〇円ずつ私に返済するように。」と申し向けた。
 その結果、原告は、献金等勧誘行為42から57記載のとおりの出捐を行った。
 このうち、献金等勧誘行為46については、原告に対し、原告の夫であるOの郵便定額貯金を解約して行ったものであり、また、一一月一四日に支払われた高麗人参濃縮茶の代金のうち二〇万円については、●●が、●●名義のクレジット契約を組んで、原告の支払を一時的に立て替えたものである。
 この点、被告は、高麗人参濃縮茶の代金を聖本献金として評価するなどと述べることはないと主張するが、証拠によれば、被告統一協会の下部組織であるPにおいて高麗人参濃縮茶(マナないし「M」と呼ばれることがある。)について、その「ローン」を目標「K」(被告統一協会において献金を意味する語として使用される場合がある。)としたり、「M契約を公的Kに100%評価」(甲A七六の一五)したことがあることなどに照らして採用しない。
献金等勧誘行為58(聖酒式祝福献金一六万円)について
 ●●は、平成一三年一月一九日、Lにおいて、原告に対し、平成一三年一月二二日の神側へ血統転換するための儀式である聖酒式を受けるために、献金をするよう申し向け、原告に献金等勧誘行為58記載の献金を行わせた。
献金等勧誘行為59(総生蓄献納解怨祭献金L分五万円)について
 ●●は、原告に対し、平成一三年四月末に、まとまった額の聖本献金ができないのなら、せめて総生蓄献納解怨祭献金として、少しでも所有権を返還する必要があるなどと申し向けたことから、原告は、同年五月一日ころ、献金等勧誘行為59記載の献金をした。
献金等勧誘行為60(Bに対する聖本献金30万円)について
 被告Cは、原告に対し、被告Bについて、メシア(文鮮明)の信頼が厚い方であるなどと述べて、被告Bに会うように指示するとともに、被告Eは、原告に対し、被告Bに会いに行くのであれば、現金を持っていくように指示をしたため、原告は、三〇万円を被告Bに交付した。
献金等勧誘行為61から66(正本献金被告A分七九九万円)について
(ア) 被告Cは、平成一三年六月二九日、原告に対し、M家の先祖を救うため、聖本を授かるように備えなければならないなどと述べて、原告に対し、献金を指示した。
 また、この際もしくはそれに近い時点において、被告Cは、それまでの原告のQ及びLに対する献金額を合計二一七一万円と確認した上で、聖本を授かるために必要な献金額である三〇〇〇万円との差額である八二九万円を献金しなければならないなどと述べ、原告は、後述するO名義の●●證券における資産を解約した金員を主たる原資として、献金等勧誘行為61から66の金員の出捐を行った。
 また、被告Eも、平成一三年九月一四日、三〇〇〇万円の献金を(平成一六年)二〇〇四年までに完了させるように申し向け、翌日にも被告Cこもごも、聖本献金を献金するように申し向けた。
 なお、原告本人は、平成一三年六月二九日の時点で、Qからの献金実績のファックスを見せられた旨述べるところ、同ファックス(甲六六)の受信日時は、「2002.2.14 17:31」(平成一四年二月一四日午後五時三一分ころ)であるから、原告本人の上記供述には疑問がないではない。しかし、原告は、Q、Lに対する献金額を合計二一七一万円と認識したうえで、献金等勧誘行為60から66において、一〇万円単位などの特に切りがいいとはいい難い数額である八二九万円の出捐をしていること(甲三二)、平成一三年九月一四日には三〇〇〇万円の献金を完了させる時期は、被告Eから平成一六年(西暦二〇〇四年)までと聞いていること(甲五六、一二四)、平成一三年九月二一日に二〇四万円の献金を行った日は日記に「すべて済んだ」(甲一二五)などと記載していること、原告の認識においては、一定額の献金(甲三二の記載によれば三〇〇〇万円を一つの区切りとしていたことは明らかである。)をすることが目的とされていたことを勘案すると、甲六六が当時存在していなかったとしても、平成一三年六月二九日に献金の指示があった事実を優に認めることができる。
(イ) また、被告Cは、平成一三年六月二六日、同年七月一六日、同月二五日、同年九月二〇日、原告が無断でOの名義の●●證券の資産を解約するに際し、原告の娘を装い●●證券に電話するなどし、解約に成功した。
 この点、被告Cは、平成一三年七月六日にはじめて原告から●●證券について解約できないものがあるので何とかして欲しいという形で聞いたものであると供述する(それ以降の解約を手伝ったこと自体は否定していない。)。
 しかし、平成一三年六月二六日の時点において既に●●證券のO名義の資産の一部が解約されていることに照らせば、同年七月六日の段階で原告が、被告Cに●●證券について解約できないものがある旨言うはずはなく、この部分に関する被告Cの供述は採用できない。
(ウ) 「●●」の購入(献金等勧誘行為62、63)について
 「●●」の購入代金の趣旨については、前述した原告の認識(献金等勧誘行為60から66についてのもの)としては、献金等勧誘行為62、63についても特に区別することなく八二九万円の献金に含めていること(甲三二)、甲三二の他の部分では、被告Aの商品に対する出捐をした部分についてその旨を記載をした部分もあることに照らせば、被告Cが、原告に対し、「●●」の代金を、聖本献金とする旨を申し向けた事実が認められる。
献金等勧誘行為67(お母様来日献金一〇万円)について
 被告Cは、平成一三年一一月九日、原告に対し、お母様が来日することとなったので、お母様のために一〇万円を献金するように申し向け、原告は、被告Cの助力により無断解約したOの●●證券の残資産を原資として、一〇万円を支払った。
献金等勧誘行為68、69(G宛献金一一万円)について
(ア) 原告は、平成一三年一二月一八日、被告Aにおいて実施された被告統一協会の教義等についての勉強会において、被告統一協会の教義のビデオを見た後、七万円を献金した。
(イ) また、被告Cは、平成一四年八月一三日、被告Bからの伝言として、原告に対し、今日できるだけのことをして欲しいなどと申し向け、原告は、同日、四万円を被告Cの口座に送金した。
献金等勧誘行為70から73(総生蓄献納解怨祭献金被告A分二一〇万円)について
(ア) 被告Cは、原告に対し、「何とか頑張って欲しい」などと申し向け、原告から、既に自分の預貯金及び原告の夫であるOの預貯金を献金し、原告名義及びO名義の証券会社の口座も解約した上で、献金している旨を告げられると、被告Cは、借金をしてでも献金するように勧誘を行った。
 また、その際に、原告から既に総生蓄献納解怨祭献金はQ及びLで行った旨述べられると、その総生蓄献納解怨祭献金と今回は別のものであるなどと申し向けた。
 被告Eは、平成一四年二月一五日ころ、原告の自宅を訪れて、六〇万円を受け取り、同年三月一二日、原告が自己の年金を担保にして得た貸付金九〇万円(甲二四の一、二)を受け取った(献金等勧誘行為70、71)。
 また、原告は、G経由で献金等勧誘行為72、73記載の献金を行った。
献金等勧誘行為74、75(献金●●借入分七万〇二六〇円)について
 ●●は平成一四年五月一六日に行われた被告Aの勉強会の際に、被告E、訴外●●及び原告に対し、「熊本Aはもう少しがんばって欲しい。今、このときに実績を果たさなければならない。献金は、愛の人格を完成するための物であり、献金すれば、ご父母さまの運勢が来る。」と被告Bから言われ、●●自身のキャッシュカードから限度額の四〇万円をキャッシングして献金し、被告E、訴外●●及び原告に対し、皆で分担して責任を果たしてもらいたいなどと述べ、●●自身も含めた四人で四〇万円を分割して負担するよう勧誘し、原告は、一〇万円を負担して支払うことを決意し、実際に七万〇二六〇円を支払った。
献金等勧誘行為76、77(債務負担分七〇〇万円)について
 被告Cは、平成一四年九月七日ころ、原告に対し、●●市内のO名義の家を担保に借金したい旨述べ、原告に、自宅を担保にして借入をし、その借入金を被告統一協会に貸し付けるよう指示するとともに、その借入金は被告統一協会が責任をもって返済すると述べた。
 また、被告Cと被告Dは、原告に対しO名義の自宅を抵当に入れて借り入れたお金は、将来、必ず被告統一協会が責任をもって返すなどと述べて、原告に、O名義の自宅を抵当に入れて借金をすることを決意させた。
 被告Cと被告Dは、平成一四年九月一〇日、同月一一日に、原告を●●に連れて行き、被告Dが、原告の姪を名乗り、借入の手続を行い、同月一二日、原告を●●市役所へ連れて行き、借入に必要な書類を取得させた。
 また、平成一四年九月一八日、●●が原告の自宅に抵当権を設定するについて、所有者であるOの意思確認をするために、司法書士が原告の自宅を訪れることになっていたが、その前に被告Cと被告Dが原告の自宅を訪れ、原告に睡眠薬を渡し、司法書士が来た際には、Oを眠らせておくように指示をしたため、原告は、その指示に従い、睡眠薬を飲ませ眠ったOに話しかけて意思確認をしたふりを行い、司法書士はこれに納得した。
 かかる意思確認手続の後、被告Cと被告Dは、原告を●●に連れて行き、借り入れた四〇〇万円を受け取った。なお、この際、被告Cの指示により、被告Eが連帯保証人となった。
 また、平成一四年九月二七日、被告Cと被告Dは、原告を再度、●●に連れて行き、金銭消費貸借契約書に署名させ、原告から借入金の残金三〇〇万円を受け取った。
 なお、借入金は被告統一協会によって●●に返済され、現在の借入金元本残金は三七八万二七六三円である。
 被告Aらは、原告に対し、かかる借金をすることを強要したり、指示したことはないと主張するが、原告が既に相当額の献金を行っていること、被告Cや、被告Dにおいて、原告がOに無断でかかる手続をしていることを知っていたこと、●●における借入に被告Dが同行した上、被告Eが、被告Cの指示により原告の借入金債務についての連帯保証人になるなど、専ら手続は被告Cらの主導により行われていることなどからすれば、かかる行為を原告が主導的に行ったとはいえない。被告Aらの主張は採用できない。
献金等勧誘行為78(祝福感謝献金被告A分)について
 平成一五年一月二二日、被告Cは、原告に対し、祝福感謝献金として六〇万円を献金するよう勧誘し、原告が、既に祝福を受けている旨述べると、被告Cは、原告に対し、今回の祝福は、今までの祝福とは意味が違うなどと述べたことから、原告は、献金等勧誘行為78記載の献金を行った。

理由

2  献金等勧誘行為の違法性について
 一般に、宗教団体が、当該宗教団体の宗教的教義の実践として、あるいは、布教の一環として、献金を求めることや、宗教的な意義を有する物品の販売などを行うこと自体は、信教の自由の一様態としての宗教活動の自由として保障されなければならないものであって、これを殊更に制限したり、違法と評価することは厳に慎まなければならない。
 また、献金や、物品等の対価の支払いなど、一定の金員の出捐を決意するに至る過程において、他者からの働きかけが影響することは当然の事理というべきである上、金員の出捐を勧誘するに際して、勧誘者が、当該宗教団体における教義等に基づく、科学的に証明し得ない様な事象、存在、因果関係等を理由とする様な吉凶禍福を説き、金員を出捐することによって、そうした吉凶禍福を一定程度有利に解決することができるなどと被勧誘者に説明することについても、その説明内容がおよそ科学的に証明できないことなどを理由として、直ちに虚偽と断じ、あるいは違法と評価することもすべきではないし、予め相手方の境遇や悩み等を把握した上で、そうした悩み等を解決する手段として、献金等の金員の出捐を含む宗教的教義の具体的実践を勧誘することも、直ちに違法と評価されるものではない。
 しかし、当該勧誘が、献金等を含む宗教的教義の実践をしないことによる害悪を告知するなどして、殊更に被勧誘者の不安や恐怖心の発生を企図し、あるいは、不安や恐怖心を助長して、被勧誘者の自由な意思決定を不当に阻害し、被勧誘者の資産状況や、生活状況等に照らして過大な出捐をさせるようなものであると認められるような場合には、当該行為が形式的には宗教的活動の名の下に行われているとしても、もはや社会的相当性を逸脱したものとして違法の評価を免れないというべきである。したがって、社会的相当性を逸脱して不法行為となる否かの判断は、当該勧誘が被勧誘者の不安や恐怖心の発生を煽り、助長するような内容のものであるか否か、被勧誘者の資産状況や、生活状況に照らして過大な出捐をさせるようなものであるか否かを社会通念に従って総合的に判断してされるべきものである。
 よって、以下では、かかる観点から上記認定した事実関係において、本件各献金等行為が、違法と評価できるものであるか否かについて検討する。

理由

3  本件各献金等勧誘の違法性等について
(1) 献金等勧誘行為1から3(印鑑二一万円、壺、念珠一八〇万円、壺五〇万円)について
 原告らの主張によれば、献金等勧誘行為1、2(印鑑二一万円、壺、念珠一八〇万円)の発生は、昭和五八年七月ころであり、献金等勧誘行為3(壺五〇万円)の発生については、昭和五九年九月ころのことである。
 そして、原告の本訴提起は本件献金等勧誘行為1から3の発生から少なくとも二〇年が経過した平成一六年一二月二二日であることは当裁判所に顕著な事実である。
 原告は、昭和六三年ころ、原告の夫から被告統一教会に通うのを止めるように説得されたことから、それ以降、平成七年ころまで、Kに通うのを止めていたのであるから、本件献金等勧誘行為1から3と平成七年ころ以降の献金等勧誘行為を一体のものとして一つの不法行為とみることも困難である。
 そうすると、本件献金等勧誘行為1から3については、二〇年の除斥期間の経過によって、本訴提起時には、被告らの援用を待つまでもなく損害賠償請求権は消滅したものと判断すべきである。 よって、その余の点については判断するまでもなく献金等勧誘行為1から3に関する原告の請求は理由がない。
(2) 献金等勧誘行為4から14(祝福感謝献金K分一四〇万円)について
 原告の夫は甲株式会社に勤務して、平成二年一一月に定年退職しており、退職時に退職一時金二〇〇〇万円余りを受領したほか、甲退職金年金が三か月ごとに三〇万円、甲拠出制年金が三か月ごとに二一万円、国民・厚生年金が二か月ごとに五〇万円の支払を受けているが、資産としては、平成一一年三月時点で有価証券約九〇〇万円(●●証券六七四万円、●●証券二一二万円)があるほかは、●●市の土地建物及び●●市の土地建物(平成九年に四七五〇万円で購入して、子供の住居に使用していた。)を所有しているにすぎず、原告自身には、後記●●證券の口座(平成一二年七月四日に解約した時点の解約金は二〇五万八六八七円)を除くと特段の資産はない状況にあった(甲五六、弁論の全趣旨)。このような、さして多額の資産を保有しているとはいえない原告に、平成九年の六月から平成一〇年七月までの約一年二か月の間に、上記認定のとおり、原告の夫が生死に関わる病気に罹患したことをきっかけとして、その原因を原告の夫が原告の信仰に反対したことに求め、原告が有している夫の病状に対する不安を煽り、写真祝福を受けないと病気は良くならないと畏怖させて、合計で一四〇万円という決して少額とはいえない金額を献金させたものであるから、その勧誘の様態、目的、結果等に照らし、社会的相当性を逸脱した違法な行為と認められる。
(3) 献金等勧誘行為15から24(総生蓄献納解怨祭献金Q分二〇〇万円)について
 上記認定したところによれば、この部分に関する献金等の勧誘は前項と同様に、原告の夫の病気を理由として、また、万物の所有権を天に返さなければ先祖が地獄で苦しむこととなるとして、原告を畏怖させた上で、合計で一七〇万円という決して少額とはいえない金額を献金させたものであるから、その勧誘の様態、目的、結果等に照らして社会的相当性を逸脱した違法な行為と認められる。
(4) 献金等勧誘行為26から28(飛行機献金四〇万円)について
 上記認定したところによれば、これらは、文鮮明らに飛行機を捧げるために献金が必要であるという理由によるもので、原告あるいはその親族に害悪が訪れることを免れるため等をいうわけではなく、それ自体としては、原告を畏怖させるものともいえない。そして、その金額も合計で四〇万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、違法とまでは評価できない。
(5) 献金等勧誘行為29から32(先祖解怨・先祖祝福献金二八〇万円)について
 上記認定したところによれば、この部分の勧誘文言は、原告の先祖が地獄で苦しんでいるなどと申し向けて、献金を迫るというものである上、献金の対価となる儀式を行う清平においても、先祖の犯した罪を原因とする病気や身体的な障害等の発生という害悪を強調するというものである上、先祖の解怨のためとして、二八〇万円という決して少額とはいえない金額を献金させたものであるから、その勧誘の様態、目的、結果等に照らして、当該勧誘行為は社会的相当性を逸脱した違法な行為というべきである。
(6) 献金等勧誘行為33から39(●●のカウンセリングによる愛天愛国献金三〇〇万円、聖本献金Q分三八〇万円)について
 上記認定したところによれば、当該勧誘行為は三度に及ぶカウンセリングにおいて、原告の夫の病気、先祖の恨みの強さ等を理由として、原告の家族の血統の途絶という深刻な結果が発生するなどの害悪を告知するものである上、かかる深刻な結果を避けるために、期限を区切った上で、三〇〇〇万円という過大な金額の献金を求め、しかもその際、献金のために原告の夫の資産を無断で利用するという違法かつ不当な行為を推奨しているものであって、あるいは、そうした原告の心理状態を利用してさらに三〇〇万円という決して少額とはいえない金額の献金を迫るというものであり、社会的相当性を逸脱した違法な行為というべきである。
(6) 献金等勧誘行為40、41(祖国光復献金一七〇万円)について
 上記認定したところによれば、当該勧誘行為の勧誘の様態は、原告の先祖を救うためということを理由として、当時既に仕事を辞め、高齢に達していた原告の証券会社の資産を解約させてまで一七〇万円という決して少額とは いえない金額を献金させたものであるから、社会的相当性を逸脱した不法行為となるというべきである。
(7) 献金等勧誘行為42から57(●●の再度のカウンセリングによる聖本献金L分七八〇万円、高麗人参濃縮茶代金二万円)について
 上記認定したところによれば、当該勧誘行為は、上記献金等勧誘行為33から39同様、原告の夫の深刻な病状を理由として、合計で三〇〇〇万円(あるいは少なくとも早急に二一〇〇万円。)という不相当に過大な額の献金を迫るものである上、個々の献金等についても、被告統一協会の他の信者に立替をさせてまで支払を迫るというものであり、その結果出捐させた額も合計で七八二万円にのぼることなどからすれば、社会的相当性を逸脱して不法行為となるというべきである。
 なお、高麗人参濃縮茶代金については、形式的には、Rに対する代金の支払いであるとしても、原告が前記認定の趣旨に基づいて出捐させられている以上、他の献金と特に区別する必要はなく出捐額が損害額となるというべきである。
(8) 献金等勧誘行為58(聖酒式祝福献金16万円)について
 上記認定したところによれば、上記献金は、被告統一教会の儀式である聖酒式を受けるためのもので、それ自身は、原告をして不当に畏怖ないし困惑させるものとまではいえない上、献金させた額についても一六万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(9) 献金等勧誘行為59(総生蓄献納解怨祭献金L分五万円)について
 上記認定したところによれば、その献金等勧誘の行為は、まとまった額の聖本献金ができないのなら総生蓄献納解怨祭献金をしてはどうかというもので、総生蓄献納解怨祭献金自体は、失われた万物の所有権全体を天に返さなければ、M家の先祖は地獄で苦しみ続けるという内容であるが、当時、殊更、M家の先祖は地獄で苦しみ続けるという点を強調して、原告を不当に畏怖ないし困惑させたとまで認めるに足りる証拠もなく、献金させた額についても五万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(10) 献金等勧誘行為60(被告Bに対する聖本献金30万円)について
 上記認定したところによれば、その献金等勧誘の行為は、原告あるいはその親族に対する害悪の告知を含むものでもないのであって、原告をして不当に畏怖ないし困惑させるものとまではいえない(原告の同日の日記においても被告Bについて「愛の溢れる方」などと表現するなど(乙ロ一七の一、実際に畏怖した様子は窺われない。)上、献金させた額についても三〇万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(11) 献金等勧誘行為61から66(聖本献金被告A分七九九万円)について
 上記認定したところによれば、当該勧誘行為の様態は、原告に具体的に献金すべき額を指示した上、先祖を救うため(原告は、聖本献金については、上記●●のカウンセリング等を再三受けているところ、上記認定したようなカウンセリングにおける勧誘文言等があったことに鑑みれば、かかる勧誘文言による畏怖の度合いは小さくないというべきである。)などとして、通常いわゆる余裕資金とは考えがたいような資産を原資にさせた上で、それまでにも相当額の献金を行っている原告にとっては本件献金等勧誘行為60も合わせれば八二九万円という不相当に過大というべき金額を献金させるものであるから、その様態、結果等に照らして社会的相当性を逸脱した不法行為というべきである。
(12) 献金等勧誘行為67(お母様来日献金一〇万 円)について
 上記認定したところによれば、その献金等勧誘の行為は、文鮮明の妻が来日することになったので献金するようにというもので、原告を不当に畏怖ないし困惑させるものとまではいえない上、献金させた額についても一〇万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(13) 献金等勧誘行為68、69(G宛献金 一一万円)について
 上記献金は、被告統一教会のビデオを見たあとCから「天国の民が守るべき四大実践綱領」についての話があり、「絶対信仰とは、絶対実践である。」の重要性を強調され、献金することにしたというもので(甲五六)、被告統一教会の信者らに、原告を不当に畏怖ないし困惑させる勧誘行為があったとまでは認められないし、献金額も合計一一万円と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(14) 献金等勧誘行為70ないし73(総生蓄献納解怨 祭献金被告A分二一〇万円)について 上記認定したところによれば、その勧誘様態は、既に原告が一度した総生蓄献納解怨祭献金を再度求めるものであるうえ、既に相当額の献金を行って財産を費消している原告に対し、さらに借金までさせて献金を求めるものである上、その額も二一〇万円という高額なものであるから、様態や結果に照らし、社会的相当性を逸脱したものというべきである。
(15) 献金等勧誘行為74、75(献金●●借入分七万〇二六〇円)について
 上記認定したところに寄れば、その献金等勧誘の行為は、原告をして不当に畏怖ないし困惑させるものとまではいえない上、献金させた額についても各三万円強と著しく高額とまではいえないことなどからすれば、当該献金等勧誘行為が違法性を帯びるとまではいえない。
(16) 献金等勧誘行為76、77(債務負担分七〇〇万 円)について
 上記認定したところによれば、当該勧誘行為の勧誘様態は、原告の住む、しかも原告の夫が所有する不動産を抵当に入れて借金をさせてまで献金を求めるというものであり、また、かかる違法ないし不当な行為に対する信者らの関与の度合いも相当程度高いものである上、さらに実際の献金額も、七〇〇万円にのぼり、それまでに原告が相当額の献金を行っていることにも鑑みれば不相当に過大な額を献金させたというべきであるから、その様態、結果等にかんがみれば、社会的相当性を逸脱した不法行為というべきである。
 なお、本件は、原告から献金をさせたこと自体が違法であり、その時点で原告に損害が発生したというべきではあるが、●●からの借入金は被告Bにおいて一部返済されていて、その限度で原告は原告の夫に対する債務の履行を免れたということができる。したがって、今後被告統一協会あるいはその他の被告らが●●に弁済した場合には、その限度で原告の損害は縮減するというべきである。
 なお、現在、原告の●●に対する借入金残高は三七八万二七六三円となっている(甲一八四)。
(17) 献金等勧誘行為78(祝福感謝献金被告A分六〇万円)について
 上記したところによれば、当該勧誘行為は、既に被告統一協会の教義に従い、祝福献金を行った原告に対し、再度の祝福献金を求めるものであって、やや執拗であり、六〇万円という献金額自体が著しく高額とまではいえないとしても、前記までの献金等勧誘行為によって、原告は夫の有価証券を処分し、預金等も使っている上、自宅及び年金を担保にした借入まで行っていること、上記原告の所帯収入(月額四〇万円強程度)などの事情も鑑みれば、献金額は全体として不相当に過大というべきであるから、当該献金等勧誘行為は社会的相当性を逸脱した不法行為というべきである。

理由

3  各被告の責任について
(1) 被告統一協会の責任
ア  七〇九条に基づく責任
 一般に宗教団体の信者による行為が、直ちに宗教団体そのものの行為と評価できるものではなく、本件において原告が主張する宗教団体から献金等の勧誘をすることの指示がされたなどの事実を前提としても、被告統一協会そのものの行為ということはできない。したがって、原告の被告統一協会に対する民法七〇九条を理由とする主張は理由がない。
一方、宗教団体の信者が不法行為により、他人に損害を被らせた場合、その宗教団体は、信者との間に雇用等の契約関係がなくても、実質的な指揮監督関係にあり、かつ、その不法行為が当該宗教団体の事業の執行について行われたものであるときは、民法七一五条に基づく使用者責任を負うというべきである。
 そこで、これを本件について見るに、不法行為と評価できる本件各献金等勧誘行為はいずれも、被告統一協会の信者によって行われていることは明らかである上、本件献金等勧誘行為はいずれも、被告統一協会の教義に基づきあるいはその実践というべき行為であって、明示ないし黙示の被告統一協会の指揮監督のもとで行われていた被告統一協会の事業の執行の一貫であったというべきであるし、その献金は、結局は被告統一教会の収入となっていると認めるのが相当であって、その利益も被告統一教会に帰属しているところである。被告Bは、F、Gの銀行口座に被告統一教会あての献金の入金があれば、Sに持っていくし、原告が●●から借り入れて献金した金員もCを通じて教会に持っていった旨供述するところであり、本件において、原告のした献金が最終的に被告統一教会の収入とならなかったことを窺わせる資料は一切ない。
 したがって、被告統一協会は、本件各献金等勧誘行為のうち、不法行為と評価できるもののすべてについて、民法七一五条に基づく使用者責任を負うというべきである。
(2) 被告Aの責任
 原告は、原告が被告統一協会の下部組織であるところの被告Aに所属していた間の献金等勧誘行為について、組織的に一体として、あるいは当事者として、関与していたとして不法行為責任を負うと主張する。
 しかし、前述したように、宗教活動の名の下に行われる献金等勧誘行為が不法行為となるのは、信者による戸別の献金等勧誘行為が社会的相当性を逸脱する場合に限られるというところ、法人である被告Aにおいては、直ちに法人としての行為を観念できるわけでないこと、前記事実関係を前提としても、被告Aにおいては、献金等とは必ずしも関連性のない商品の販売等、被告統一協会との関連性の少ない事業等も行っていることなども考えあわせれば、個人被告らと被告Aの行為は一応峻別が可能であることなどからすれば、個人被告らの行為について、被告Aが直ちに直接の不法行為責任を負うものではない。
 ただし、「●●」の販売については、その販売主体は被告Aであるところ、「●●」の販売は上記認定説示のとおり、違法性を有するというべきであるから、当該部分に限って被告Aは不法行為責任を負うというべきである。
(3) 被告B、被告C、被告D及び被告E の責任について
ア  被告Bの責任について
 上記認定したところによれば、被告BはHの代表という立場にあったのであるから、被告Aにおいて原告に行われた不法行為については、自身が関与したものについてはもちろんのこと、それ以外のものについても、他の個人被告らに明示若しくは黙示の指示または共謀をして当該不法行為を行って当事者として関与していたというべきである。
 これに反する被告Aらの主張は採用できない。
 したがって、被告Aに所属している間に行われていた違法な本件各献金等勧誘行為については被告Bはいずれも責任を負う。
 具体的には、被告Bが責任を負うべきであるのは、献金等勧誘行為61から66、70から73、76から78である。
その他の個人被告について
 個人被告についてはそれぞれが関与した行為について責任を負うというべきである。具体的には以下のとおりである。
(ア) 被告Cについて
 上記認定事実に照らせば、本件各献金等勧誘行為のうち、被告Cが関与し、責任を負うべきであるのは、献金等勧誘行為61から66、70から73、76から78である。
(イ) 被告Dについて
 上記認定事実に照らせば、本件各献金等勧誘行為のうち、被告Dが関与し、責任を負うべきであるのは、献金等勧誘行為76、77である。
(ウ) 被告Eについて
 上記認定事実にれ照らせば、本件各献金等勧誘行為のうち、被告Eが関与し、責任を負うべきであるのは、献金等勧誘行為61から66、70から73である。
 なお、献金等勧誘行為78については、前記認定事実を前提にすると、被告Eの関与したことは窺えないことからすれば、被告Eはこの部分について責任を負うとはいえない。
具体的な損害額
(1) 献金若しくは物品の代金名下の損害について
 上記検討したところによれば、献金若しくは物品の代金名下の損害について各被告が負うべき損害賠償額は別紙損害額一覧表の各被告に対応する「献金等による損害額」欄記載のとおりである。
(2) 慰謝料
 上記検討したところによれば、本件各献金等勧誘行為のうち違法と評価されるものについては、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料について各被告が負うべき損害賠償額は、それぞれ、別紙損害額一覧表の各被告に対応する「慰謝料損害額」欄記載のとおりであると認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
 上記検討したところによれば、本件各献金等勧誘行為のうち違法と評価されるものについて、原告が被った弁護士費用相当額の損害について各被告が負うべき損害賠償額は、それぞれ別紙損害額一覧表の各被告に対応する「弁護士費用損害額」欄記載のとおりであると認めるのが相当である。
結論
 以上によれば、原告の請求は、各被告に対し、不法行為(被告統一協会については使用者責任)に基づく損害賠償として別紙損害額一覧表の各被告に対応する「合計損害額」欄記載の金額(連帯関係についても、同欄記載のとおり)及びこれらに対する不法行為の後の日であり、各被告に対する訴状送達の日の翌日である各被告に対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを各求める限度で理由があるから認容し、その余の請求については理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一二部

裁判長裁判官  綿 引 穣
裁判官  渡 辺 真 理
裁判官  岡 本 陽 平