◆損害賠償請求事件 福岡高裁判決(平成24年3月16 日)【抜粋】
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平成24年3月16日言渡
平成23年 第382号 損害賠償請求控訴事件
(原審・福岡地方裁判所平成19年 第576号)
口頭弁論終結日 平成23年12月7日

 福岡県
  控訴人兼被控訴人(一審原告)
               A女(以下「原告」という)
  同訴訟代理人弁護士    大 神 周 一
  同            平 田 広 志
  同            西 岡 里 恵
 東京都渋谷区松涛一丁目1番2号
  被控訴人兼控訴人(一審被告)
           世界基督教統一神霊協会
             (以下「被告」という。)
  同代表者代表役員     梶 栗 玄太郎
  同訴訟代理人弁護士    福 本 修 也

主   文
1 一審原告の本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
・一審被告は、一審原告に対し、3億9143万2720円及びうち3億円に対する
 平成13年7月1日から(中略)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
・一審原告のその余の請求を棄却する。
2 一審被告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを5分し、その1を一審原告の負担とし、その余を
  一審被告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
 
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告信者らの行った違法な勧誘行為等により、平成11年から平成17年にかけて、物品購入や献金等を強要され、原告自身の資産の他、原告の養母(平成17年4月8日死亡。以下「養母B」という。)及び原告の実父の叔母の資産から調達した分を含め、多額の金銭支出を余儀なくされたとして、被告に対し、民法709条又は715条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

A原審は、献金等の勧誘行為が、一般的な説法の域を超えて、相手方に具体的な害悪を告知したり、心理的な圧迫をかけるなどして、殊更に相手方の不安や恐怖心をあおり、その結果、相手方が自由な意思決定を阻害された状況で献金等をさせられたと認められる場合には、当該献金等の勧誘行為は、社会的に相当な範囲を逸脱した行為として、不法との評価を受けるとした上で、原告の献金等に向けられた被告信者の勧誘行為等を個別的に検討し、それが社会的に相当と認められる範囲を逸脱したか否かにより不法行為の成否を判断して、別紙勧誘行為一覧表の番号7(以下「番号」のみを記す。)のうち、献金の事実を認めるに足りない平成16年10月10日頃の200万円を除いた勧誘行為について違法性を認め、原告の請求のうち、献金等に係る損害合計6543万2720円、慰謝料300万円、弁護士費用685万円の各損害及び原告が被告の委託を受けて、株式会社アイフルの貸金の連帯保証人となっていたことから、平成22年10月8日時点の残高631万2242円の事前求償権(以上、合計8159万4962円)を原告の損害と認定し、同額及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる限度で原告の請求を認容したが、合計3億円を献金した番号2を含む、その余の勧誘行為等の違法性は認めなかったところ、当事者双方がこれを不服として控訴した。

B中心的な争点であった番号2の献金勧誘行為の違法性について、原審は、原告が記載した委任状(乙116)に「先祖解放と子孫繁栄の為に」といった記載があることから、献金勧誘行為の際に先祖に関連する話がされたことは推測できるが、原告が被告の沖縄教区長志村貞三に宛てた手紙及び原告が献金後に記載した報告書の内容等に鑑みれば、原告が3億円献金後に見たとする岩根靖のビデオの内容や、被告に聖本特赦路40日間(一定の期限までに献金目標が達成されなかったので、期限を40日間延長して、被告の全教区の信者らに対し、目標献金額を達成することを要求する摂理)における献金獲得目的があったとしても、被告が原告に対し、先祖因縁に関連する具体的害悪を告知し畏怖させたとの原告の主張は認められない旨判示した。
(中略)

第3 当裁判所の判断
(中略)
3億円献金の経緯及び天運石の購入について
(1)認定事実  
原判決記載の前提事実及び各項末尾記載の証拠並びに弁論の全趣旨によれば、3億円献金前後の経緯について、以下の事実が認められる。
原告は、平成5年、子供がいなかった伯母夫婦である養父と養母Bの養子となった。養父は、原告が養子となる以前、妹に対して数億円を与える内容の遺言を作成し、貸金庫に保管していた。
養父は、平成5年5月23日、財産は養母Bと協力して蓄積したものであり、名義の如何を問わず共有財産であることから、全財産を養母Bに相続させ、養母Bの意思によって処分すること、原告とその長女、次女が入籍したので、自宅を継ぐ者のために考慮することなどを内容とする遺言を作成し、同年7月11日に死亡した。
養母Bは、平成7年3月14日、養父の遺産の中から、亡養父の妹宛てに3000万円を振込送金した。
原告は、平成11年2月11日、長女の受験のため上京した際、亡養父の妹の娘で、被告の信者(以下、信者「C」という)と会い、同人に被告の大田区のビデオセンターに連れて行かれ、説明を聞くうちに、Cのために、同人が欲しがる天運石を540万円で購入することを承諾し、同年5月21日、Cの口座に540万円を送金した。
養母Bは、心臓の具合が悪くなり、平成12年3月8日、病院に入院した。養母Bは当時82歳で、「労作性狭心症」と診断され、心臓バイパス手術を行うことになった。
養母Bは、入院のショックで胃潰瘍となり、予定されていた手術日程が延期され、輸血で状態が改善された後に手術をすることになったが、当初、輸血を拒んだ。養母Bは、原告の説得により、平成12年3月18日、原告が輸血同意書にサインをすることを了承し、輸血により養母Bの体調は少し回復した。原告は、その頃、毎日のように神社に行き、養母Bの命が助かるよう祈った。
原告は、平成12年4月4日頃、Cに連絡を取ったところ、Cは、既に病院の近くに来ており、原告に対し、被告の沖縄の教会の人から指示されて韓国の清平(チョンピョン)に行った後、被告の偉い人物2人と一緒に来た等と説明した。
原告は、同日、病院の向かいにあるホテルの一室で、Cと共に来ていた当時被告の中部教域長であった松田及び志村と初めて面会した。Cは、原告に対し、松田及び志村のいる前で、前項と同様の話をした。松田及び志村は、Cから、到着するまでの間に、原告の養母である養母Bが入院中であることを聞いていた。
原告は、C、松田及び志村に対し、養母Bの病状や今まで神に祈り続けたこと、原告の養子縁組の経緯、養父の遺産相続のこと、かつて経験した霊的体験等を話した。志村らは、原告がC、松田及び志村と面談中、Cが足が痛いと言い出し、松田が、その足に聖本を載せて祈りを捧げ、Cの足の痛みが治った様子を見せ、また、部屋の中で原因不明の大きな音がした際には、養父の霊が来ている等と説明した。
 原告は、志村から、●●(原告の実父の家系)と●●(原告の養父の家系)は、国家的な罪が大きい、養母Bを救うには、3000万円出せるかと尋ねられ、これを承諾した。
 さらに、志村は、原告に対し、伊藤(原告の実母方の家系)は、伊藤博文が韓国人・中国人から嫌われていることから、嫌われている名前であり、その恨みが養母Bを苦しめている等と述べた。
 原告は、最終的に、養母Bの命を助けるため、被告に対し、3億円を、養母B名義の預金口座から下ろして献金することを決意した。原告が、3億円の献金を決意するまでの時間は、C、松田及び志村と話し始めてから1時間半くらいであった。なお、原告は、当時、養父の遺産残額は7億円程度と認識していた。
原告は、養母Bの預金から3億円を献金することについて承諾を得るため、養母Bの病室において、具体的な金額は言わないまま、養母Bの命を助けるためにお金を使わせてほしい旨の話をしたところ、養母Bは頷いた。その後、Cが養母Bの病室に入り、養母Bと話をした。
 ところで、志村及び松田の証人尋問の結果及び松田の陳述書には、志村及び松田も養母Bの病室に入り、原告から養母Bに紹介された旨、上記認定に反する供述部分及び供述記載部分があるが、志村は、会釈をしたのみで養母Bと言葉を交わしていない旨供述しているのに対し、松田は、養母Bが松田からの面前で、原告に全部任せた旨発言したと供述しており、志村の供述と食い違っていること、養母Bと言葉を交わしたかどうかについて志村の供述が変遷していること、松田らが養母Bと、3億円もの献金を承諾したことについて、何ら言葉を交わさないのは不自然であることに照らし、採用できない。
原告は、平成12年4月6日、Cと共に、養母Bの口座がある中央三井信託銀行北九州支店に行き、養母B名義の信託証書のうち7000万円を解約して普通預金口座に入れた上、6000万円の小切手を発行する手続を行い、発行された小切手をCに渡した。
養母Bは、平成12年4月10日、心臓バイパス手術を受け、同月11日までICU(集中治療室)に入った。
原告は、平成12年4月11日、松田の運転する車で、志村と共に、養母Bの口座がある中央三井信託銀行北九州支店に行き、残っていた養母B名義の信託証書のうち、2億4050万円を解約して普通預金口座に入れた上、6000万円の小切手4枚を発行する手続を行おうとしたところ、同支店の支店長から、養母Bの意思確認を要求された。
 そのため、原告は、銀行員と共に病院に行った。銀行員は、養母BがICUに入っており、モニターカメラでしか話ができず、他の養母Bの親族も来ていた様子を見て、養母Bに直接意思確認をせず、小切手4枚を原告に手渡して帰り、原告は、小切手4枚を志村に渡した。
 ところで、志村及び松田の証言並びに松田の陳述書には、志村が原告に同行したのは同月6日であるとの、上記認定に反する供述部分及び供述記載部分がある。しかし、志村及び松田の供述によれば、同日、銀行に対し3億円全額を請求し、銀行員から養母Bの意思確認を求められ、原告が銀行員を連れて病室に行き、養母Bから3億円を下ろすことについて承諾を得たことになるが、同日に3億円の一部である6000万円の小切手のみ発行された理由が不明であること、後述のとおり、養母Bは、原告及び銀行員に対し3億円を下ろすとの承諾をした事実は認められず、志村及び松田の上記供述は、採用できない。
原告は、平成12年4月14日頃から同年5月25日頃まで、病院の近くのホテルにおいて、志村らから被告の教義等について講義を受けた後、帰宅して報告書を作成した。また、志村から、聖本は霊を防ぐから持って歩くように言われ、原告は、外出するときはこれを持ち歩き、寝るときも抱えて寝ていた。
原告は、平成12年5月27日、志村貞三宛てに、養母Bが輸血により危篤状態を脱した後、「あんたに全て任せるよ」、「あんたに何もしてやれないままだ」、「どうしてもっと早くやってあげなかったんだろう」、「ああ、何でやらなかったんだ」等と発言したこと、及び3億円を6000万円の小切手5枚にしたのは、養父の妹の仏前に1枚、4人の子供に各1枚という理由である旨の内容を含む手紙を書いた。
原告は、平成12年5月30日、飯塚にマンションを借り、松田が連帯保証人となった。松田、C及び兼島は、同月から同年11月26日まで、上記マンションに交替で入り、原告に対し、被告の教義等について講義を行った。
養母Bは、平成13年1月25日、養父の妹の息子から貸金を依頼され、2000万円を振り込んだ。養母Bは、同年4月16日、返済が出来ない旨の手紙を受領し、だまされた等と思った旨を日記に記載した。
Cは、平成12年4月以降、原告宛てに手紙や郵便物を出す際、原告が借りていたマンションに送る場合には、自己の住所や名前を偽らず、一方、養母Bと原告が同居していた福岡県●●町(自宅)に送る場合には、自己の住所や名前を偽った。また、兼島も、原告宛てに手紙や郵便物を出す際、養母Bと原告が同居していた同町に送る場合には、送付元住所を沖縄でなく、神奈川と偽った。
養母Bは、平成13年5月19日、中央三井信託銀行にある自身の名義の口座残高について、ペイオフ施行後も同銀行に預けたままでよいかどうか、「▲▲先生」に相談した。なお、養母Bが、平成12年6月26日に、同年3月29日から同年6月25日までのことを記載した日記には、3億円の献金をした旨の事実の記載はない。
  ところで、被告は、原告の提出した養母Bの日記の平成13年5月19日部分のメモは、養母B以外の者により作成された旨主張するが、その他の記載部分に照らし不自然とまでいえず、同主張は採用できない。
  また、被告は、原告が甲A143号証、甲B75号証、甲B79号証の1をねつ造ないし訴訟後に作成した等と主張するが、甲A143号証で撮影されている甲A146号証のビデオの冒頭が、使用済みビデオの上書きにより二重写しになる可能性は否定できず、また、甲B79号証の1が原告による筆跡とまでは断定できないから、被告の主張は採用できない。
原告は、被告に対し、原告及び養母Bの預貯金等を献金した結果、所有する不動産の固定資産税の支払もできない状態となった。

(2)当事者の補充的主張について
ア 違法性判断基準
 一般に、宗教団体が、当該宗教団体の宗教的教義の実践として、あるいは布教の一環として、献金を求めることや宗教的な意義を有する物品の販売などを行うこと自体は、信教の自由に由来する宗教活動の一環として許容されるべきものであり、直ちに違法と評価することはできない。
  そして、献金等の勧誘の過程で、勧誘者が、当該宗教団体における教義等に基づく、科学的に証明し得ない事象、存在、因果関係等を理由とするような吉凶禍福を説き、金員を出捐することによって、そうした吉凶禍福を一定程度有利に解決することができるなどと相手方に説明することについても、その説明内容がおよそ科学的に証明できないことなどを理由として、直ちに虚偽と断じ、あるいは違法と評価すべきではない。また、予め相手方の境遇や悩み等を把握した上で、そうした悩み等を解決する手段として、献金等の金員の出捐を含む宗教的教義の具体的実践を勧誘することも、直ちに違法と評価されるものではない。
  しかし、当該勧誘が、献金等を含む宗教的教義の実践をしないことによる害悪を告知するなどして、殊更に相手方の不安や恐怖心の発生を企図し、あるいは、不安や恐怖心を助長して、相手方の自由な意思決定を不当に阻害し、相手方の資産状況や、生活状況等に照らして過大な出捐をさせるようなものであると認められるような場合には、社会的相当性を逸脱したものとして違法との評価を免れないというべきである。そして、その判断に際しては、勧誘対象者が置かれた状況、勧誘者側の状況、勧誘対象者にとっての金額の多寡等様々な要素を総合的に勘案すべきである。
  そこで、以下、このような観点から、本件各献金勧誘行為の違法性を検討する。
イ 3億円献金勧誘行為(勧誘行為一覧表番号2)の違法性について
@原告の主張の要旨
  原告は、被告から、原告の実父母の先祖因縁により養母Bが病気になっており、3億円を献金しなければ養母Bが助からない等と言われ、これに畏怖して献金を行ったものであり、自由な意思決定を阻害された、そして、被告に献金することを養母Bに話せば拒絶されて献金できず、養母Bの命が助からないと思っていたため、養母Bから承諾を得ないまま被告に対して3億円を献金することにした旨主張する。
 そこで、以下、被告の信者であるC、松田及び志村により、原告が主張するような勧誘行為があったか、また、これにより、原告が自由な意思決定を阻害されたといえるか等につき、検討する。
~志村らの勧誘行為
 前記のとおり、志村らは、平成12年4月4日頃、原告と会い、養母Bが入院していた病院の近くのホテルで、Cが、原告に対し、沖縄の教会の指示で韓国の清平に行って来たと説明して、沖縄における被告の偉い人として志村及び松田を紹介したこと、志村及び松田は、Cから、到着する前から、養母Bが手術を控えていることを認識していたこと、原告と面会した後に、原告の生い立ちや養子縁組に至る経緯等を聞いていること(認定事実キ及びク)が認められる。C、志村及び松田は、上記ホテルで原告と会った際、原告に霊的経験等があることを認識した上で、聖本によりCの足の痛みが治癒するといった、原告を誤信させるような演出、すなわち、Cの足の痛みを松田が聖本によって治す様子を見せたり、原因不明の大きな音を養父の霊が来ていると説明したりして、原告に、被告や聖本に特別な力があることを信用させ、その結果、原告は、志村らと面会してから1時間半程度で、被告に対して3億円という一般的にみて極めて高額の献金をすることを決意したこと(同ケ)が認められる。

沍エ告の献金の動機
  前記のとおり、当時高齢であった養母Bが、心臓バイパス手術という危険性の高い手術を受けた平成12年4月10日(認定事実オ及びシ)の直前及び直後に献金が行われていること(同サ及びス)、原告が養母Bの手術の無事を祈願していたこと(同カ)、志村から、前記ホテルで、養母Bを救うには3000万円出せるかと尋ねられたこと(同ケ)、前記志村らによる勧誘行為が、聖本に養母Bの病気を治す力があると思わせる行為であったことから、原告は、養母Bの命を助けることを目的として、被告に対し3億円を献金したことが認められる。
  ところで、被告は、3億円献金について、原告が、志村らによる勧誘行為が行われる前から、被告の教義に賛同していた旨主張するが、原告が、平成11年に被告の大田区所在のビデオセンターに連れて行かれてから、Cに連絡を取るまで、1年以上も間があいていること(同エ及びキ)、原告は、養母Bのために神社で祈願をしていたにもかかわらず、平成12年3月8日に養母Bが入院してから1か月程度(同年4月頃まで)、Cと連絡を取っていなかったこと(同オ及びキ)から、原告が、志村らによる勧誘行為が行われる前から、被告の教義に賛同していたことは認められない。

A養母Bの認識
  前記認定事実テ記載のとおり、養母Bは、平成13年5月当時、中央三井信託銀行の自己名義の口座に、1000万円を超える残高が存在すると認識していたことが認められる。また、同ツ記載のとおり、被告の信者であるCび兼島が、原告と同居していた養母Bから、原告とCや兼島とのつながりを隠そうとしていたことが認められる。その他、飯塚日誌の記載上、原告は、Cに対し、中央三井信託銀行の担当者からの電話について、養母Bに中央三井信託銀行の預金口座から3億円を引き出した認識がないことを前提として、どのように対応したらよいか相談をしていたことが認められる。
  以上の事実に照らせば、養母Bは、原告が、被告に対し、養母Bの口座から引き出した3億円を献金した事実を認識していなかったことが認められるのであり、これに反する志村及び松田の証言は、いずれも採用できない。
  ところで、被告は、原告が、訴状において、原告が養母Bに対し、命を助けるために3億円を出すことを話し、養母Bが肯いて承諾したと主張しておきながら、その後主張を変更したが、養母Bに黙って献金したか否かという重要な点について、訴状作成段階で失念していたことは不合理である旨指摘する。しかし、3億円の献金から訴訟提起までに約7年弱が経過していること、養母Bの心臓手術直前にいきなり志村らと面会することになったという慌しい状況の中で、原告が、養母Bにどのような話を伝えたか記憶に混乱があったとしても、そのこと自体不合理と決めつけることはできない。
  また、被告は、原告の手紙にあった養母Bの発言から、養母Bが3億円の献金について認識し、承諾していたことが明らかであると主張するが、「あんたに全て任せるよ」との発言は、養母Bが原告の説得により輸血に応じ、その結果危篤状態を脱した経緯に鑑みれば(同カ)、治療方針に関して養母Bに判断を委ねたとも解されるのであり、また、「何もしてやれないままだ」等の発言は、仮に、原告に対する金銭的な生活の援助等に関することを指していたとしても、原告に対する金銭の譲渡を超えて、被告に対する献金を承諾したものと解することはできない。
。自由な意思決定の阻害の有無
  宗教的教義に基づき、予め把握していた相手方の悩み等を解決する手段として献金等を勧誘することも、述べた内容が科学的に証明できないからといって直ちに虚偽であり、違法と評価させるものでないことは前記のとおりである。殊に、本件では、養母Bの手術が元来危険なものであり、原告は、養母Bが助かる可能性が低いと考えていたのであるから、献金をすれば助かる旨の発言のみでは、直ちに原告の自由な意思決定を阻害したということはできない。
  原告が、志村らによる勧誘行為により自由な意思決定を阻害されたと認められるためには、本件において、志村らにより、害悪を告知されるなどして、不安や恐怖心を助長するような勧誘行為が行われたこと、例えば、原告が主張する、原告側の親族の先祖因縁により養母Bが病気になっていると言われたかなどを具体的に検討しなければならない。
  この点、平成12年4月当時、家系図に記載されていた親族の範囲が不明であることから3億円献金の勧誘行為当時、原告の供述及び陳述書の他、原告の主張する志村らの先祖因縁等に関する発言を裏付ける明確な証拠はない。
  しかし、平成12年4月当時、原告の家系図が作成されていたこと(なお、被告は、平成12年4月当時、原告が戸籍謄本等を取り寄せる協力をすることはあり得ず、原告が志村らから甲B85号証を見せられたことはない旨主張するが、平成11年2月に家系図の一部は書かれていたこと、原告の親族であったCが家系を把握しており、戸籍を確認しなくても作成できたと考えられることから、同主張は採用できない。)、家系図には原告の実父母の姓である「●●」及び「伊藤」の記載があることから、被告は原告の実父母が「●●」及び「伊藤」姓であると把握していたことが認められ、また、原判決も指摘するとおり、平成12年4月6日付けの委任状に「先祖解放」との記載があることから、先祖に関する話がされたことが推認できる。
  また、被告が、韓国国籍の文鮮明を創始者かつ救世主(メシア)とする宗教団体であること、被告の信者である岩根靖によれば、伊藤博文が朝鮮半島が南北に分断された原因と考えていたこと及び被告の機関誌において、日本人が慰安婦等として韓国人を強制連行したことで日本人は恨まれ、恨みを持った霊が日本人の体の中に入り、病気を誘発する旨の話が伝えられていることが認められることから、志村らが、原告に対し、韓国人から恨まれると考えられる経歴を有する過去の人物の恨みを、その人物と同じ姓を持つ現代の者が負うとの話をした可能性は否定できない。
 加えて、原告は、原告の実母方の祖父の兄弟である伊藤●●が、炭坑夫として韓国の人を使っていたと聞いていたので、志村らの話に恐怖心を抱いた旨供述しており、3億円献金当時、家系図に伊藤●●の記載がなかったとしても、勧誘の際に行われた「伊藤」姓の先祖因縁に関する話から、原告が想起し、事後的に同人の氏名が家系図に加筆されたものと推認され、勧誘当時に「伊藤」姓の話がされた可能性を否定する事情とはならない。
 以上によれば、志村らは、原告に3億円の献金を勧誘した際、原告に対し、原告の実父母の姓に関する先祖因縁を説明し、これにより養母Bが苦しんでおり、これを救えるのは被告のみである旨の話をし、原告がこれを信用して3億円の献金を決意したことが推認できる。
 これに対し、被告は、原告が、養父の遺志に反する遺産の使い途に養母Bの原因があると考え、3億円の献金を養母Bに勧めたと主張する。確かに、養父は、原告を養子とする以前、妹に対し財産を遺贈する旨の遺言を作成していたが、その後、養母Bに全財産を相続させる遺言を作成していること(同イ)、養父の死後、養母Bが養父の妹に対して3000万円を送金していること(同ウ)、養母Bが、妹の息子に貸した2000万円が返済されないことを気にしていたこと(同チ)等の事実に鑑みれば、原告が養母Bに対し、養父の遺志に沿うとして3億円の献金を勧め、養母Bがこれに応じた事実は認められず、被告の主張は採用できない。
 また、原告が志村貞三宛ての手紙や報告書を作成したのは、3億円の献金後、志村や松田から被告の教義について講義を受けた後であり(同セ及びソ)、被告の教義について記載する等、志村らから聞いた話に影響を受けていることが記載内容からうかがわれるのであり、3億円を6000万円の小切手5枚にした経緯についての記載も、Cらにより指示されたとおりに記載した可能性も否定できず、同手紙に先祖因縁の記載がないからといって、献金前に先祖因縁の話がされなかったとまではいえない。

浮オたがって、原告にとって養母Bが大切な存在であり、また、高齢で心臓手術という生命への危険性が高い手術が直後に控えているという状況下であることから、通常の状況下とは異なり、原告に対する勧誘行為の態様に相当程度配慮すべき状況であったところ、被告は、こうした状況における原告の不安に乗じて、演出等を用いて、原告をして、聖本を入れることにより養母Bの命を助けられると考えるに至らしめた上、病気の原因が原告の実父母の先祖因縁に起因する旨述べるなどして不安を助長した本件勧誘行為により、原告は、自由意思を阻害されて3億円の献金を行ったものであり、前記のとおり、原告は、本件における一連の献金によって所有する不動産の固定資産税の支払もできない状態となったこと(前記認定事実ト)に照らしても、社会的相当性を逸脱した違法があるといわなければならない。

天運石の購入勧誘行為(勧誘行為一覧表 番号1)の違法性について
  平成11年2月に行われた天運石に関する540万円の勧誘行為については、天運石を欲しがっているCのために、原告が、天運石を540万円で購入することを承諾したことが認められるのであり、原告主張のように、Cから天運石を購入するよう執拗に言われたとしても、原告の不安や恐怖心を助長する勧誘行為がされたと認めるに足りる証拠はない。

平成12年6月以降平成16年4月までの各献金勧誘行為
(別紙勧誘行為一覧表 番号3から6まで)の違法性
A原告は、平成12年9月25日の献金2950万円の勧誘の際、Aの実父が罹患した病状が、養母Bの胃潰瘍出血をした状況と酷似していたことを重視し、また、原告養母Bが5か月前に被告により助けられたと信じ畏怖していることも考慮し、勧誘行為の違法性を判断すべきであると主張する。
  しかし、勧誘行為の違法性は個別の献金ごとに判断すべきであるところ、病状が似ているとはいえ、病名等を把握しないうちに献金したとの原告の供述が信用できないことは、原判決指摘のとおりであり、その他に兼島らによって、原告の不安や恐怖心を助長するような勧誘行為がされたと認めるに足りる証拠はない。
B平成14年1月29日の貸金名目の献金についても、被告の信者において、原告の不安や恐怖心を助長し、原告の不安に乗じるような勧誘行為がされたと認めるに足りる証拠はない。なお、原告は、消費貸借契約に基づく貸金返還請求を選択的に主張するが、原告が被告の信者に対し、訴訟提起に至るまで同日付けで交付した金員の返還を請求したことはなく、返還請求権を放棄することにより献金したものと認められるから、当該主張は採用できない。
Cその余の勧誘行為(別紙勧誘行為一覧表 番号8も含む)について、原告の不安や恐怖心を助長するような勧誘行為がされたと認めるに足りる証拠がないことは、原判決指摘のとおりである。

浅見との面談以降の各献金勧誘行為
(別紙勧誘行為一覧表 番号7)の違法性
 被告は、原告が、浅見との面談前から献金するとの強固な決意を持っていた旨主張するが、「現実問題」を超えなければ献金できないと認識していたのであるから、仮に、そうであるとしても、原判決が述べているとおり、希望の限度にすぎない。

 また、浅見の話すスピードが一定でなく、面談中に中座することもあり、平安山が浅見の発言の語尾のニュアンスまで書けないのはむしろ当然であり、面談記録に記載されているような断定的な害悪の告知はしていない旨主張するが、面談記録における「ウツ病になりますよ」との記載からすれば、被告の主張する「うつ病の気がありますね」とのニュアンスとは大幅に異なるのであり、被告の主張は採用できない。

 被告は、被告と浅見との間に雇用関係がないと主張するが、原判決が認定するとおり、浅見との面談は被告の信者であった兼島が紹介し、被告の那覇教会で行われていること等から、浅見との面談が被告の中部教域における行事の一環として行われたと認められ、加えて、浅見との面談以降、原告の被告に対する献金額が多額になったことからしても、被告への献金を勧誘することを目的として浅見と原告の面談が行われたことは明らかであるから、被告はその責任を免れない。

 なお、浅見がカウンセラーとしてインスピレーションを顧客に告げる行為も、献金勧誘行為が違法であると認められる範囲において、司法審査が及ぶことは当然であり、何ら憲法上の自由を害するものではない。
(以下略)

  福岡高等裁判所第2民亊部
裁判長裁判官 木 村 元昭
裁判官 小野寺 優子
      裁判官 吉 田 祈代

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