声  明
2023年10月27日

旧統一教会に対する解散命令請求に伴う財産保全について


  
全国霊感商法対策弁護士連絡会

 代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京) 
事務局長 弁護士 川井康雄(東京)
  
 盛山正仁文部科学大臣は、本年10月13日、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会。以下「旧統一教会」という。)に対し、宗教法人法に基づく解散命令請求を行った。

 当連絡会は、今後、旧統一教会に対して解散命令が言い渡されることは確実であると考える。旧統一教会の財産が適切に保全されていれば、解散命令確定後の清算手続において被害者が救済を受けられる可能性がある。

 ところが、現在のところ、宗教法人法上、解散請求を受けた宗教法人について、解散命令が出るまでの間にその財産の流出を防止するような規定は存在しない。

 旧統一教会の収入源のほとんどが献金であることからすれば、同法人の財産のかなりの部分は預貯金ないし現金といった流動資産であると考えられる。しかし、その財産流出を防止する制度がなければ、旧統一教会は、解散命令が出されるまでの間に、その財産を関連団体や信者に移転させ、あるいは海外に流出させるおそれが高い。また、国内に有する不動産を関連団体や信者に移転させるおそれもある。これらの場合、上記清算手続を通じた被害者救済は極めて困難になってしまう。

 旧統一教会の被害者の多くは、長年、同法人に対する解散命令請求がなされず放置されてきたことにより生じ、あるいはその被害が増大したというべきである。それにもかかわらず、ようやく解散命令に至ってもなおそれらの被害救済が図られないということになれば、一体何のための解散命令だったのか、ということになってしまう。そうした事態は断固として避けなければならない。

 当連絡会は、本年5月16日に速やかに財産保全の特別措置法を成立させるべき旨の声明を発出し、7月7日、9月30日、10月13日の各声明でも繰り返し同法の成立を求めてきた。

 そして、立憲民主党、日本維新の会は今月20日に特別措置法案、宗教法人法の改正案を国会に提出し、自民党、公明党の両党は同月25日に財産保全等の被害者救済について議論するプロジェクトチームの初会合を開催した。同チームは来月中旬を目処に具体策をまとめる考えであると報じられている。

 当連絡会は、与野党がこうした取り組みを行っていることについては評価し、実効性のある立法のために協力を惜しまない考えである。

 ただ、現在までの報道によれば、上記プロジェクトチームでは、新法の検討ではなく、まずは現行法での対応を検討する、具体的には民事保全法の活用、外為法(外国為替及び外国貿易法)による対応、法テラスの相談窓口の拡充による対応、といった議論がされているようである。

 しかし、上記のような対応だけでは現実的な財産保全は著しく困難であり、以下の実情を踏まえて立法に向けた検討を行っていただく必要がある。


  (1)民事保全法では被害救済のための財産保全は極めて限定的になってしまう
   まず、民事保全法の場合、保全されるべき債権(損害賠償請求権)の存在を疎明(一応確からしいという程度まで事実を明らかにすること)し、なおかつ相当額の保証金をまず被害者側で準備する必要がある。

 しかし、旧統一教会は、献金等に対して領収証等を発行しておらず、献金記録の開示にも一切応じず、被害事実の調査も十分に行わない姿勢を示していることから、特に長期にわたる被害の場合、損害賠償請求権の疎明のために過大な負担を強いられることになる。また、霊感商法・高額献金等の被害によって多くの財産を収奪された結果、保証金を準備できる余力もない被害者がほとんどである。

 仮に上記の疎明の問題や保証金の問題を乗り越えて保全命令が下されても、その保全の範囲は、疎明された債権に必要な範囲に限定されてしまうことから、差し押さえられるのもその範囲の「特定の財産」だけに限られることになる。

 この点、当連絡会が長年にわたり受けてきた相談件数、被害額の規模からしても、あるいは解散命令請求の際に行なわれた文化庁の説明によっても、旧統一教会の被害は全国的に同様の内容で発生しており、かつ、その規模は「相当甚大」であることが判明している。このことからすれば、現時点でもまだ被害の声を上げることのできない被害者は、現役の信者の方も含めてかなりの数に上ることが優に想定される。

 こうした被害者の多くは、脱会後に時間が経ち、それに伴い少しずつ心の整理がついて行き、ようやく自らの被害事実を認識してはじめて声を上げることができるものであるところ、民事保全法の枠組みでは、こうした被害者の債権は一切保全されないことになってしまう。全国的に同様の被害が多数発生しているという実態からしても、財産保全の必要性について個々の債権のみに着目するのではなく、被害の全体像を把握した上で検討されるべきである。


  (2)外為法及び関税法の改正では海外への資産移転しか対応出来ない
    外為法による対応は、その具体的な内容が現時点では明らかにされていないものの、同法が財産凍結に向けた法整備をしたのはテロリストを対象にするものに限られている。これを旧統一教会にまで拡げるような改正を行うことができたとしても、同法の性質上、海外に財産を移転させる点に限っての対応しかできず、十分な財産の流出を防止するような制度とはならない。この点は関税法による対応でも同様である。

  (3)法テラスの相談窓口拡充は、財産保全にはあまり有効な方法とは言えない
    法テラスの相談窓口の拡充は、まだ被害の声を上げていない被害者の声を受けとめやすくするものであり有意義なものである。しかし、財産保全との関係では大きな意味を有するものではない。

 したがって、政府及び与野党は、上記問題点について速やかに確認の上、それを踏まえて、財産保全のために実効性のある特別措置法を作るべきである。

 この点、上記プロジェクトチームでは、財産保全の法整備は憲法の保障する財産権や信教の自由との関係で難しいとの意見が出されたと報じられている。また、旧統一教会からも一部議員に対して、同様の理由により法整備をしないように求める書面が提出されている。
 しかしながら、裁判所の判断による財産保全手続として、解散命令後の清算手続に支障が生じないようにするために必要最低限の方策を採ることは、何ら財産権及び信教の自由の侵害となるものではない。

 すなわち、当然のことながらこれらの憲法上の権利・自由も全く無制約なものではなく、他者の人権との関係で制約を受けるものである。憲法違反となるかはその制約の程度による。例えば、保全する財産の上限を定めたり、宗教活動に必要な支出については一定の限度で許容したり、または、一定の行為(例えば、正当な理由のない海外への財産移転や国内での不動産移転等)に限って規制したりするなど、工夫の余地はいくらでもある。財産権及び信教の自由との調整を図りつつ、適切に財産を保全し被害者救済を図っていくことは十分に可能である。

 文化庁の調査により旧統一教会について全国で「相当甚大」な規模での被害が確認され、文部科学大臣により宗教法人法に基づく解散命令請求が行われた以上は、もはや、被害者救済のための財産保全も、基本的には個々の被害者の自助努力に委ねられるべきものではない。国として正面から法整備をして対応すべきものである。このタイミングで適切に法整備が行われ被害救済が図られなければ、オウム真理教の場合のように、被害者や弁護団が被害救済のために数十年も活動を続けることにもなりかねない。

 そして、被害者救済を実効性のあるものにするという目的においては、与野党は一致しているはずである。当連絡会は、与野党が党派を超えて速やかに協議を行い、今臨時国会中に実効性のある財産保全の特別措置法を成立させていただくよう、改めて強くお願いする次第である。


以上