声  明
2023年7月7日

安倍元首相銃撃事件から1年を迎えるにあたって


 全国霊感商法対策弁護士連絡会
代表世話人 弁護士 平岩敬一(横浜)
代表世話人 弁護士 郷路征記(札幌)
代表世話人 弁護士 中村周而(新潟)
代表世話人 弁護士 河田英正(岡山)
代表世話人 弁護士 山口 広(東京)
事務局長 弁護士 川井康雄(東京)

 昨年7月8日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件から明日で1年となる。当連絡会は、いかなる理由があろうと安倍元首相を死に至らしめた山上被告人の行為が決して許されないものであることを、改めてここに表明する。

 同事件を契機として、世界平和統一家庭連合(旧「世界基督教統一神霊協会」。以下「旧統一教会」という。)をめぐる様々な問題が明らかになり、同教団の持つ顕著な反社会性や被害の凄惨さ、とりわけ2世の方々が受けてきた深刻な苦しみが広く世間に知られるようになった。旧統一教会と政治家との極めて深刻な癒着が明らかになり、政治家や政党は次々と旧統一教会との関係を絶つ旨を表明した。文化庁は、旧統一教会が宗教法人法第81条1項1号(法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと)に該当することを理由とする解散命令請求の可否を判断するため、旧統一教会に対して初めての報告徴収・質問権の行使に着手した。12月10日には不当寄附勧誘防止法(被害者救済新法)が異例の早さで成立し、同月27日には厚生労働省により宗教虐待等を念頭においたガイドラインが作成公表された。

 このような一連の政治や社会の動きは、それまでの「空白の30年」とも呼ばれる長い期間、旧統一教会による深刻な被害が放置されたことを考えると大きな変化といえる。しかし、当連絡会の設立目的である被害抑止・被害者救済という見地から見ると、これらはまだ取り組みの第一歩に過ぎず、多くの問題は未だに解決されずに残されたままである。

 今、改めて考えるべきなのは、今後、旧統一教会による種々の被害を再び生み出さないためにはどうすべきか、既に生じた被害をいかに救済していくかということである。このような観点から、当連絡会は、本日、本声明を発出し、以下のとおり特に重要と考える事項について旧統一教会及び関係各所へ求める。 


 第1 声明の趣旨

 
  旧統一教会に対して

 旧統一教会に対して、今後の伝道活動においては、被勧誘者に対し、予め、勧誘の主体が旧統一教会である事実、及び勧誘目的が同教団への伝道であることを明らかにするとともに、入信後の献金及び伝道など宗教的実践活動の中核部分を明らかにし、被勧誘者の信教の自由及び自己決定権を侵害しないように求める。

また、旧統一教会は、個々の信者らに責任を押し付けることなく、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合って、これに誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう求める。

 加えて、上記の前提として、旧統一教会に対し、信者や信者であった者への勧誘経緯、献金・物品購入代金等として支払わせた金額を全て調査し、これらの者やその家族からの要求があった場合には調査結果を開示するように求める。


  政治と旧統一教会との関係

 各政党並びに国会及び地方自治体の各議会に対して、第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げ、その所属する国会議員及び地方議会議員全員について、旧統一教会(関連団体を含む。)とのこれまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表するよう求める。

 また、政治家の皆様(首長を含む。)に対して、旧統一教会との関係を断絶し、旧統一教会やその信者から選挙での支援を受けることがないよう求める。さらに、その所属する各議会においても関係を断絶する決議をするように求める。


   3 解散命令と財産保全

 文化庁に対して、速やかに、宗教法人法第81条1項に基づく旧統一教会の解散命令請求の準備を整え、裁判所へ申立てを行うよう求める。

 また、政府または各政党に対し、速やかに、宗教法人の解散命令請求がなされた場合に、裁判所が対象宗教法人の財産を管理し保全することを可能とする特別措置法を成立させるよう求める。

   4 不当寄附勧誘防止法の見直し等

 政府・国会に対して、政府内または国会内に検討会等を設置して、被害者・家族の生の声を聞く場を設け、その声を十分に聞いた上で、被害実態に即した不当寄附勧誘防止法の執行の強化とともに同法の見直しを行い、または新たな法制度を創設するよう求める。さらに、被害者・家族の支援のため各分野での様々な支援策を検討するよう求める。

 加えて、「正体隠し伝道」と呼ばれる正体を隠し、被勧誘者の信教の自由及び自己決定権を侵害する勧誘方法を規制する立法措置を講じるよう求める。

   5 宗教虐待等に対応するための法整備

 政府・国会に対して、「宗教等2世」(いわゆる「宗教2世」のみならず、宗教を名乗らないスピリチュアル・疑似医療・心理セラピー等の様々な団体・集団でも同様の問題が生じ得ることから、これらを含めて「宗教等2世」と表記する。)が受けた宗教の信仰等を理由とする虐待(以下「宗教虐待等」という。)を念頭に、第三者虐待防止法等の新法の制定又は児童虐待防止法の改正により、第三者による宗教虐待等の禁止を法律上明記するとともに、宗教団体等による組織的な宗教虐待等に対処するために国・自治体の権限明確化を図るなどして、宗教虐待等に対処するための法整備及び体制の強化を実施するよう求める。

 第2 声明の理由

 
  声明の趣旨第1項(旧統一教会に対して)について

 旧統一教会は、長年にわたって、その名称や宗教団体であることを伏せたまま、被勧誘者の不安等に付け込んで教義を先に教え込む「正体隠し伝道」と呼ばれる違法な伝道手法を用いてきた。このような伝道手法は、単に多額の献金などの経済的被害をもたらすだけではなく、被勧誘者の生き方そのものに関わる信教の自由や自己決定権を侵害するものであり、旧統一教会の活動の本質的な問題点といえる。

 このような人権侵害を生じさせないために、旧統一教会においては、今後の伝道活動において、被勧誘者に対し、予め、勧誘の主体が旧統一教会である事実、及び勧誘目的が同教団への伝道であることを明らかにするとともに、入信後の献金及び伝道など宗教的実践活動の中核部分を明らかにするべきである。

 また、旧統一教会は、昨年7月以降も、基本的には「被害」なるものは見当らないという従前と変わらない姿勢をとっており、また、被害回復請求に対しては、旧統一教会自体は被害者や家族に向き合わずに信徒会なる実在しない組織に対応させるなど、被害者・家族に対して不誠実な対応を取り続けている。旧統一教会において、個々の信者らに責任を押し付けることなく、献金記録等の調査及び被害者・家族への開示を行い、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合って、これに誠実に対応し、謝罪の上で賠償すること、その前提として献金記録等の調査及びその公表を行うことは、公益性を認められた宗教法人としての当然の責務である。

   2 声明の趣旨第2項(政治と旧統一教会との関係)について

 政治家が旧統一教会と決別すべき理由は、①旧統一教会が反社会的行為を繰り返している団体であること、②旧統一教会と決別しなければその反社会的活動を是正させることが困難になること、③旧統一教会との繋がりは反社会的団体の違法活動にお墨付きを与え、違法な行為を助長する結果となることである。

 昨年7月以降、旧統一教会と政治家の極めて深刻な癒着の実態が次々と明るみに出たことから、政界では、各政党において旧統一教会との従前の関係性を問うアンケートが実施されたり、個別の議員において旧統一教会との関係を絶つという表明がなされたり、岸田文雄首相において自民党は旧統一教会との関係断絶を徹底する旨の国会答弁がなされたりするなど、旧統一教会との関係を見直す動きが一定程度見られた。

 しかし、選挙での協力を得るための組織的関係の見直し、政策形成への影響の検証、旧統一教会の名称変更への便宜供与の存否等についてのそれ以上の十分な調査は行われず、世論の沈静化とともに癒着の実態はうやむやにされたままとなっている。

 アメリカでは、1976年以降、フレイザー下院議員を座長とする委員会が「コリアゲート事件」(韓国政府等による米国政界工作事件)に関する調査を行い、「フレイザー報告書」と称される大部の調査報告書が公表された。それをもとに、旧統一教会の教祖文鮮明が脱税容疑で告発され服役することになり、以後、同国での旧統一教会の活動はそれ以前に比べて大幅に下火になった。

 他方で、日本では、旧統一教会は一部の保守政治家のお墨付きを得て共存共栄し、それが被害拡大のサポートの役割を果たしてきたという現実がある。

 旧統一教会と政治家とのこれまでの癒着の実態について、第三者委員会等の機関による十分な調査を行うとともに、今後、政治家の皆様にはその関係をしっかりと断絶していただくことが是非とも必要である。

   3 声明の趣旨第3項(解散命令と財産保全)について

 旧統一教会は、長年、韓国の文鮮明や韓鶴子とその周辺幹部の指示に従って、国により認証された宗教法人として大手を振って違法な活動を組織的に続けてきた。裁判所の解散命令により宗教法人格を失えば、「宗教団体」としては存続し得るが、「宗教法人」としての特権を失い、間違いなく組織は弱体化し新しい被害は減ることになる。そのためには、文化庁が解散命令請求を行い、裁判所が一刻も早く解散命令を出すことが必要である。

 同時に大事なのが、解散命令請求をされた宗教法人の財産保全を図るための特別措置法を制定し、早急に財産保全を行うことである。宗教法人法には財産保全の規定がなく、立法の不備がある。

 旧統一教会は、これまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金してきており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともあり、解散命令が近づくにつれ、財産隠しを図る可能性は極めて高い。

 解散命令が確定し清算手続に移行すると、第三者の弁護士が裁判所から清算人として選任され、法人の財産を処分し、債権者へ配当を行うことになる。被害者も債権者と認められれば、清算手続の中で支払を受けることができ、被害救済が図られる。しかし、財産が隠されてしまえばそれも不可能となり、被害者は泣き寝入りとなってしまうのであり、そのような事態はなんとしででも避けなければならない。

   4 声明の趣旨第4項(不当寄附勧誘防止法の見直し等)について

 昨年12月に成立した不当寄附勧誘防止法は、被害抑止という観点からも被害者救済という観点からも、甚だ不十分なものであった。

 その理由としては、法案の審議過程で、特に政府・与党において被害者・家族の生の声を聞いた時間・量が圧倒的に少なかったことから、政府・与党が認識していた被害実態と現実の被害実態との間に大きな齟齬が生じたことにある。

 家族被害・2世被害を含む様々な被害に対処するためには、まず、政府内か国会内に検討会等を設置して被害者・家族の声を聞く場を設け、被害者・家族の声を十分に聞く必要がある。その上で、被害実態に即した形で、不当寄附勧誘防止法の見直しを行うか新たな法制度を創設するとともに、少なくとも今以上に消費者庁や地方自治体による消費者を保護する体制、厚生労働省、こども家庭庁による宗教等2世の悲惨な実態を救済する体制が充実されるべきである。

 また、前記のとおり、旧統一教会の本質的な問題点が「正体隠し伝道」による信教の自由や自己決定権の侵害にあることから、同様の人権侵害が繰り返されることのないよう、このような伝道活動に対する正面からの規制も検討されるべきである。

   5 声明の趣旨第5項(宗教虐待等へ対応するための法整備)について

 「宗教等2世」が抱える問題に社会全体で向き合い、助けを求める山上被告人の声をすくい上げることができていれば、安倍元首相銃撃事件は防ぐことができた。事件を契機に、SNS等で多くの「宗教等2世」がその思いを吐露し、深刻な苦しみを抱えた2世が多数いることが明らかになった。「宗教等2世」が受ける宗教虐待等を放置することはもはや許されない。

 昨年12月に厚生労働省が出した宗教虐待等に関するガイドラインは、児童虐待防止法の枠組みの中での最大限の対応指針を示したものとして評価できる。しかし、同法は基本的に親子間の虐待を想定しているため、宗教団体の指導が背後にある宗教虐待等への対応には限界がある。

 そこで、第三者虐待防止法等の新法の制定又は児童虐待防止法の改正により、第三者による宗教虐待等の禁止を明記するとともに、宗教団体等による組織的な宗教虐待等に対処するための国・自治体の権限明確化を図ることなどが必要である。

   6 最後に

 当連絡会は本声明に列挙した諸問題について、自ら積極的に関連各所と協力・連携し、考え方・意見・政党を問わず政治家の皆様とも協力・連携するなどして、引き続き実現に向けて努力していく決意である。

  以上